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三浦豪太の探検学校

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冒険心や探究心溢れる三浦豪太が世の中について語った日本経済新聞の連載記事「三浦豪太の探検学校」(2019年3月に最終章)の、リバイバル版。わずか11歳でキリマンジャロを登頂。フリ…
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2021年5月の記事一覧

アンチエイジングの里

2011年2月26日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  長野県の高山村は温泉地であり、長寿に関連するポリフェノールを含むリンゴ、ブドウ、各種野菜の産地でもあることから順天堂大学の白澤卓二教授(加齢制御医学)は「アンチエイジングの里」と命名し、僕らは毎年ここでアンチエイジングキャンプを開催している。  志賀高原を背景になだらかな斜面が続き、正面には北アルプスと北信五岳が一望できる美しい村内の田畑は500㍍も標高差がある。日中、日当たりがよく夜に冷え込む西斜面の特性は、ワイ

原点見つめなおす

2011年1月8日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  札幌テイネ山でのスキー三昧が、僕が小学校のころからの三浦家の正しい正月の過ごし方だ。  しかし現役選手だったときは、世界中を巡るワールドカップ(W杯)が欧州で始まり、年を越すとすぐに北米戦が行われる。お正月をのんびり過ごすわけにはいかず当時、僕はのんきに年越しそばなどを食べている家族がうらやましく思えたものだ。  年末年始に現役真っただ中の後輩である里谷多英選手と附田雄剛選手がテイネに練習にやってきた。彼らはテイネ山

生き抜くための感性

2011年2月19日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  先日、都内のスポーツ店で登山家の竹内洋岳(ひろたか)さんに久しぶりに会った。  地球には14の8000㍍峰がある。彼はそのうちの12座に登り、日本人としての初の14座登頂にもっとも近い男だ。昨秋、13座目になるチョ・オユー(8201㍍)に挑んだが、雪崩の危険があるため撤退したことをブログで読んでいた僕は、その時の状況をたずねてみた。すると、登れなかったことより「10歩先に進んだことを後悔している」と、彼は言った。

自然と人の境目

2011年2月12日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  朝7時、朝日がコースをオレンジ色に照らし始めたころ、新潟・苗場スキー場のパトロール隊の仕事が始まる。苗場には都会的なイメージがあるけれど、実は極めてワイルドなスキー場だ。  特に上部は急斜面が多く、場所によっては雪崩の危険もある。パトロールはそれらを一つずつ回り、危ない箇所を事前に崩したり、亀裂の距離を測ったり、と毎日のモニターが欠かせない。そして危険と判断するとロープを張り進入を禁止する。  苗場で40年間パトロ

身体の声に耳を傾ける

2011年2月5日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  先週、長野県高山村での冬のアンチエイジングキャンプを行った。  このキャンプには中尾和子先生のボールエクササイズがある。彼女は1983年に「第1回ミス日本エアロビクスコンテスト」に優勝するほどの一流アスリート。しかし、当時、長男の授業参観で1時間立っていただけで疲れてしまったことなどから、見かけだけでなく体の中からの健康を目指すコンディショニングトレーニングの重要性に気がつく。  現在、太鼓とエクササイズを融合させた

最新装備も使い手次第

2011年1月29日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  最近のウエアは高機能だ。薄くて軽くて暖かいものが多い。それぞれのウエアの役割を理解すればさらに幅が広がるだろう。体を温めるには、いかに外気の影響を受けず暖かい空気の層を体の中に保つか、ということから始まる。  下着は速乾性に優れている方がよい。なぜなら水分は空気の25倍の熱伝導率があり体温を奪ってしまうからだ。そのためもっとも外に着るアウターウエアは外気を遮断すると同時に内部にたまった水蒸気を排出することが求められ

楽しみは身近にも

2011年1月22日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  関東平野は毎日晴天が続いている。反対に甲信越地方では連日の大雪だ。僕は最近、晴天の東京と大雪の長野県との行き来が激しい。  先週末も逗子のマウンテンバイク仲間と志賀高原焼額山に恒例のスキーツアーに行ってきた。僕は普段、彼らと一緒に逗子の里山で遊ぶことが多いのだ。  逗子の里山は最近の晴天続きで山の上は乾ききり、絶好のマウンテンバイクコンディションである。夏場だったら湿って前輪がとられる粘土質の土も、縦横無尽に張り出

ふかふか大雪で練習

2011年1月15日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  雪不足に悩んでいたスキー場も年末年始の大雪で本格的にスキーシーズンを迎えることができそうだ。北海道にいた僕も毎日降り続けるパウダースノーを楽しんでいた。  以前、僕がW杯を転戦していたころ、フランスのティーニュ(アルベールビル五輪会場)で大雪が降ったことがある。1日1㍍近くも降り、それが2日間続けて降ったものだから除雪していないところは胸まで届かんばかりの新雪が積もった。  あまりの大雪に除雪が間に合わず、スキー場

子供に何を贈るか

2010年12月25日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  僕の父(雄一郎)は孫たちに「おじいちゃん」ではなく「スーパージィ」と呼ばせている。そのスーパージィが僕の息子の雄豪にスキーとブーツをクリスマスプレゼントとして買ってくれた。子供用とはいえセットで2万円と高価で、2歳半にはまだ早いかなとも思ったが、ちょうどいいサイズがあり、一緒にスキーを楽しめるならと奮発してくれた。  実際に滑ってみると立つのがやっとで、スーパージィのスキーの間にぶら下がりながら滑ってきた。足元で流

Xマス彩るスキー神話

2010年12月18日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  この時期、街は色とりどりのイルミネーションとクリスマスソングであふれる。これは僕にとって同時にスキーシーズ到来のサインだ。最近、クリスマスとスキーの面白いつながりを見つけた。  北欧ではキリスト以前からクリスマスの時期に冬至を祝うお祭りがあり、この時に北欧神話の最高神であるオーディンが8本足の魔法馬とトナカイに乗ってやってきて、煙突から家に入り贈り物を届けるという――これがサンタクロースの原型ではないかといわれてい

「トキメキ」若返りの源

2010年12月11日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  年末は、とかく集まりが多いが、連日の寝不足と疲れで風をひいてしまった。  どうも飲食や寝不足によって免疫力が低下したようだ。この免疫力とは心と体の両面から影響を受ける。体は疲れによって、心はストレスでダメージを受けるが、ストレスといってもそのとらえ方で大きく変わる。よく「バカは風邪をひかない」というが、確かに物事を楽観的にとらえていると免疫力は保たれ、逆に心配しすぎると免疫力は落ちるらしい。  今年の夏、新潟県阿

渡航前の健康対策

2010年12月4日日経新聞夕刊に掲載されたものです。  先月、東京医科大学病院に新設された渡航者医療センターの開設記念講演が行われた。  このセンターは海外渡航者にそれぞれの滞在先で遭遇する可能性のある感染症や高山病など特異な健康リスクについて説明し、健康指導、ワクチンの接種や現地対策など総合的な指導を行う窓口だ。  海外ではトラベルクリニックとして普及しており、西ヨーロッパでは53%、米国では36%、豪州では31%の渡航者が旅行前に訪れるが、日本ではまだなじみがなく、

人類最古の足跡

2010年11月27日日経新聞夕刊に掲載されたものを修正加筆したものです。  先日、2歳半になる息子と二人で実家のある札幌へ2泊3日の旅行をした。  この時期の子供は主張が激しい。起きている間は遊ぶことをせがまれ、眠たくなるとぐずり、少しでも我が通らないと悲劇の主人公のように泣き伏せる。大変ではあったが、だんだんそのわがままがいとおしくなる。子供の笑い顔、寝顔、激しく変わる喜怒哀楽を見ているうちに心が和むのを感じた。  僕は冒険家族の一員として子供のころから富士山、キリマン