見出し画像

アンチエイジングの里

2011年2月26日日経新聞夕刊に掲載されたものです。

 長野県の高山村は温泉地であり、長寿に関連するポリフェノールを含むリンゴ、ブドウ、各種野菜の産地でもあることから順天堂大学の白澤卓二教授(加齢制御医学)は「アンチエイジングの里」と命名し、僕らは毎年ここでアンチエイジングキャンプを開催している。

 志賀高原を背景になだらかな斜面が続き、正面には北アルプスと北信五岳が一望できる美しい村内の田畑は500㍍も標高差がある。日中、日当たりがよく夜に冷え込む西斜面の特性は、ワインブドウの栽培に適し、良質のポリフェノールがブドウの中に凝縮する。特に皮に含まれるレスベラトロールというポリフェノールは長寿遺伝子をオンにするので皮ごと発酵させる赤ワインがお勧めだ。降雨量が少ない気象条件と土にあわせてイタリア系、フランス系、ドイツ系など様々な品種が栽培されている。

 昨年、村に温泉・ワイン・アンチエイジングをキーワードに「スパワインセンター」が開設され、日本ソムリエ協会常務理事でマスターソムリエの高野豊氏は「こうした条件はヨーロッパでも珍しい。日本だけではなく世界が注目するブドウがこの高山村では作られている」と話していた。
 同じくリンゴの皮にも複数のポリフェノールが含まれている。その中のプロシアニジンは脂肪の蓄積を抑制するのと同時にがん細胞を自死させる働きがある。抗酸化作用の高いカテキンも含まれている。
 このようなリンゴや野菜作りの肥料として、村では家庭や学校で出た生ゴミや通常産業廃棄物になるキノコの栽培で使われた培地、畜産で出た牛糞などを混ぜて使っている。85日間ほど微生物により発酵させ処理すると高品質の循環型肥料となる。又、殆どの家庭では自分たちで味噌を作る。小中学校の給食の4割は地元野菜だ。

 以前、コラムでアンチエイジングは環境を考えることだと書いた。遠くから食料を調達すると、二酸化炭素(CO2)排出量が増えるばかりでなく、産地がわからなくなり安全性と質が不安定になるからだ。立地条件を最大限に生かし、地産地消からさらに発展した「土から考える農業=知産地消」を実践しているのが高山村だ。グローバリゼーションには良質なローカリゼーションが重要なのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?