【18歳以上向け?】無限の感覚 第3話
*
彼女は僕に真実を告げようとしない。
打ち解け始めたと感じたのは僕の妄想だったのだ。
要するに彼女は「はぐらかそう」としている。
こんな関係では「うまくいかない」とは思う。
しかし、彼女とのセックスは気持ちいい。
体は正直だ。抗うことはできない。
いつの間にか、世界の真実なんてものは「どうでもいい」と思えるように、僕は変化した。
僕は彼女とセックスするたびに「変化」していった。
もう、なにも食べなくていいのである。
空腹がない。満たされている。
そんな感覚しか僕には残っていない。
「特別なニンゲン」から「特別な神」に変化しているような……。
僕は彼女と交わることで確実に「進化」しているのだ。
それは間違いない。事実なんだ。
そして、世界も変わっていった。
世界中のニンゲンは、死ぬことができなくなった。
ニンゲンだけじゃない。
動物も、植物も、みんな死ななくなった。
地球を含む太陽系は大きくなり、死ななくなった僕たちは「なんの問題もなく暮らせる」ようになった。
子供をつくっても問題ないくらいに。
今のところ、この世界に終わる気配はない。
だけど……僕がいくら「進化」しても、無限の感情はわからない。
ロボットだから当たり前のことだろうけど、僕たちの間に子供はできなかった。
*
――僕が無限と出会って二千年の時が流れた。
その経過した時間は、世界を変革させるには十分だった。
世界は、二千年前よりデジタルチックな未来っぽい世界へと変化していた。
それは『空想科学読本』の表紙の絵のような……二千年前のニンゲンが考える未来想像図にそっくりである。
未来の姿がどうであれ、それは僕の物語にとって関係ない。
大事なのは、このあとの展開である。
僕は無限と二千年分セックスした。
最初のノルマは一日二、三回だった。
だが、その回数は僕の体が「変化」していくことによって回数が増えていった。
つまり、本来のニンゲンが持つ限界を超えてセックスし続けたのだ。
それがなにを意味するのか?
今後の僕たちの展開を見届けてほしい。
結論として、この世界の生物は絶滅する。
*
「初めまして。私は、この世界を監視している者です」
――僕が生まれて二千年が経過した現実の世界。
心の中をつんざくようなアナウンスが流れる。
そのときの僕は、相変わらず無限とセックスをしていた。
気持ちいいセックスをしているときにアナウンスしないでくれ……。
「この世界のエネルギーを採取するときが来ました」
世界中のニンゲンが「どういう意味?」というようなアナウンスに対する疑問形の言葉を発する。
僕は「変化」することによって、この世界のニンゲンの声が耳に届きやすくなっていた。つまり僕の耳には全世界中の声が聞こえる。もちろん声の取捨選択はできる。だから、このアナウンスは特殊なのだ。
「宇宙の彼方より来なさい、御子柴四郎と無限の子供たち――収穫者《ハーヴェスター》」
僕と無限の子供?
どういうことなんだ?
だって、無限はロボットだろ?
子供ができるわけがない。
――そんな疑問の前に「なぜ僕たちのことがアナウンスされているのか?」と、疑問を持つべきだった。
「――!」
突如、空から飛来する物体が顕現した。僕は、僕の部屋の窓から、その物体が顕現する様子を見て、「――!」と、驚いた。この世界のニンゲンたちも。
「…………」
その物体のヴィジュアルは誰もが「かわいい」と言うような、アニメに出てくるマスコットキャラのようでもあった。
イヌ、ネコ、ウサギ……様々な愛玩動物の見た目をしている。
その愛らしい姿に人々は心を奪われた。
「これが僕たちの子供?」
無限は僕に応じる。まるで真実を知っていたかのように。
「ええ、とっても美しいでしょう。これが、わたしたちの子供なのです」
「どうして僕たちの子供は、あんな姿をしているんだ?」
「簡単なことです。あなたの精子を採取し、わたしに備え付けてある遺伝子変換装置によって収穫者《ハーヴェスター》は宇宙の空間から誕生します。つまりですね、わたしは、あなたの遺伝子を採取するためにつくられた、宇宙で孕むセクサロイド……宇宙がわたしの子宮なのです。要するに、わたしは……この宇宙と連結《リンク》された存在――」
――僕たちの子供は小動物のような愛らしい姿をしている。
だが、二千年以上前のアニメ媒体から続いてきた歴史の中で、とある魔法少女モノのマスコットキャラが「すべての陰謀」だったというパターンがある。このパターンは二千年後の未来にとって王道である。つまり僕たちニンゲンは――。
「――逃げろおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!」
収穫者《ハーヴェスター》と呼ばれる存在から逃げる、モノワカリのよい人たち。モノワカリのよい人たちは上記のセリフを叫び、とにかく逃げる。
モノワカリの悪い人たちは「うわあああああぁぁぁぁぁぁっ!」と叫びながら食われた。
収穫者《ハーヴェスター》は生物を食らう化物だったのだ。
「どういうことだ? なぜ僕たちの子供は『捕食者』になっているんだ?」
「どういうことって、こういうことなのですよ。なんの見境もなく『セックスしたい』と望んだニンゲンの末路というやつです。なぜ、あなたの部屋に、わたしがいるのか、疑問に感じなかった『あなたの責任』なのですよ」
「無限、僕の遺伝子が欲しかったのか? だから僕とセックスしたのか?」
「ええ。しつこいようですけど、できるだけ、わかりやすく言います。あなたの持つ『死』の因子を採取するため、わたしは『ロボット』としてつくられました。あなたの遺伝子を採取し、調理する……『世界』の因子を持つセクサロイドとして」
無限は、今まで僕に隠していた秘密を吹っ切れたように言う。
「わたしたちの子供である収穫者《ハーヴェスター》は『死』と『世界』の因子が交わった『概念』。『概念』ゆえに一瞬で、この世界の生物のエネルギーを採取することが可能です。ニンゲンにしてみるならば収穫者《ハーヴェスター》の『収穫』は『災害』に置き換えられるでしょう――人知を超えた『災害』としてね」
彼女は笑いながら――。
「――要するに、これは余興。『概念的なエネルギー採取』――『概念』とは、ニンゲンには視覚認識できない領域のこと――を生物たちに視覚化してやっているだけでも感謝してほしいのです」
「つまり、僕は『世界』とセックスしていたのか。だから宇宙と交わっているような『無限の感覚』を感じ取ることができたのか」
「そういうことです。わたしは宇宙、あなたはゾンビなのですよ」
「天と地も違うな。もっといい表現とかないのかよ。せめて不死者《アンデッド》にしてくれ――」
――「この物語」の流れをさえぎるようで失礼するが、事の顛末を知っている「語り部の僕」に説明させてほしい。「死」の因子とは、僕の体に遺伝子レベルで刻み込まれた要素のことである。つまり、「成長したい」と思っても「成長しない」し、「生きたい」と思っても「死にたい」になってしまう――体の機能を都合よく「否定」する因子のことだ。だから僕の体は170センチメートルを超えることはできなかったし、感情が常にネガティヴだったのだ。この「死」の因子に関する詳細は無限と最後にセックスしたときに知った。ちなみに、このときは最後のセックスをしていない。物語の先を説明なしで知りたい人には蛇足だと感じられるだろうが、「語り部の僕」による説明は以上だ――。
――今の僕の状態について説明させてほしい。
今の僕には、この世界の生物の感情は手に取るようにわかる。
新天地を求めて地球の外へ旅立った者もいた。
だが、そんな人たちも僕の子供に食べられた。
地球以外にも僕の子供たち――収穫者《ハーヴェスター》がいるようだ。
僕と無限が話している間に収穫者《ハーヴェスター》の「生物採取」が終わったみたいだ。
僕以外の生物は絶滅した。
どうして僕は生きているのだろう……。
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