ブラコン妹とシスコン兄ちゃんと甘ったるくて苦ったらしい液体(短編小説・前編)

「あ、お兄ちゃん……お帰りなさい! ご飯にする? お風呂にする? それとも、わ・た・し?」
家に帰ると、エプロン姿の妹が出迎えてくれた。
なんだこのベタな展開は……。
「いや、普通に飯食うよ」
「えー、そこは『じゃあ、お前で』って言うところだよ!」
「言わねえよ。っていうか、なんだよその口調は……」
「お、お兄ちゃんを誘惑してるんだよ! 言わせないでよ、恥ずかしい!」
「なんでお前が恥ずかしがってんだよ……」
本当に何やってるんだこいつは……。
「それで、お前は何やってたんだ?」
「え、えっとね、ちょっと晩御飯を作ってみたの」
「へぇ、それは楽しみだな」
「うん、楽しみにしててね!」
そして、妹は台所へと戻っていった。
俺も、自分の部屋に戻り、制服から部屋着に着替える。
さて、そろそろ夕食の時間だ。
どんな料理が出てくるのか、少し楽しみだな。

それから数分後、食卓には俺の好物ばかりが並ぶという奇跡が起こった。
唐揚げ、エビフライ、ハンバーグ、その他諸々。
しかも、どれもこれも絶品だった。
これはもう、完全に嫁だな。
「ごちそうさまでした」
「はい、お粗末様でした」
妹の作った料理を完食した俺は、後片付けをする妹の姿をぼーっと眺めていた。
なんか、いいなこういうの。
家族って感じがして。
そういえば、こいつもいつかは結婚するのかな。
きっと、俺よりもいい男を見つけて、そいつと結婚するんだろうな。
そう考えると、なんだか寂しくなってきた。
俺がシスコンだからだろうか。
それとも、こいつが可愛いからだろうか。
多分、どっちもだろうな。
「どうしたの? お兄ちゃん、そんなにわたしのこと見て」
「ん、ああ、なんでもないよ」
「そ、そう?」
いかんいかん、つい見すぎたか。
あまりじろじろ見るのもよくないな。
嫌われてしまうかもしれない。
気をつけよう。
「なあ、一つ聞いていいか?」
「なに?」
「もし、もしもだぞ? お前に好きな人ができたとしたらどうする?」
「うーん、そうだなー」
そう言うと、妹はしばらく考え込んだ。
「とりあえず、その人のことをもっと知りたいかな」
「ほう、例えば?」
「趣味とか特技とか、好きな食べ物とか、あとは、どこが好きなのかも気になるなー」
なるほど、確かに相手のことをよく知らないと好きにはなれないよな。
でも、それだとただのストーカーみたいになるぞ……。
「あとは、デートしたり、一緒にご飯食べたりしたいかな」
「ふむふむ」
「あ、あとね、キスとかもしてみたいなーなんて……」
そう言って、妹は顔を赤くする。
まあ、年頃の女の子だもんな。
そういうのに興味あるよね。
というか、今の会話の流れでなぜ顔を赤らめる必要があるのだろう。
まさかとは思うが、俺に恋してるなんてことないよな……?
いや、さすがにそれはないか。
だって、兄妹だし。
ありえないだろ。
「ねえ、お兄ちゃん」
「なんだ?」
「わたしがもし、誰かと付き合ったらどう思う?」
「そりゃもちろん、応援するよ」
「……それだけ?」
「それ以外に何かあるのか?」
「いや、ないならいいんだけどさ……」
なぜか、妹は少しがっかりしているように見えた。
なんでだろう。
俺にはわからない。
「じゃあ、今度はわたしの番ね!」
「おう、なんでも聞いてくれ」
「あのね、お兄ちゃんは、わたしのどこが好き?」
「え、えーっと、全部……?」
「なんで疑問形なの!? そこは即答するところでしょ!?」
そう言われても、特に思いつかなかったのだから仕方ないじゃないか。
しかし、改めて聞かれると困る質問だな。
強いて言うなら……。
「やっぱり、優しいところかな」
「えっ、それってどういう……」
「そのままの意味だよ。お前はいつも笑顔で接してくれるからな。そういうところが、俺は好きだよ」
「そ、そうなんだ……えへへ」
妹は照れくさそうに笑った。
やはり、笑顔というのはいいものだな。
見ていてこっちも幸せな気分になる。
「じゃあ、お兄ちゃんはわたしと付き合えたら嬉しい?」
「そりゃあ、嬉しいに決まってるだろ」
「ほ、ほんと?」
「当たり前じゃないか」
「そっか、よかったぁ」
何が良かったんだろう。
まあいいや。
それにしても、さっきの話のせいで、なんか意識してしまうな。
俺と妹が付き合う……か。
いやいや、ありえないだろ。
だって俺たちは兄妹なんだから。
そんなの絶対ダメだ!
でも、仮に付き合ったとしたらどうなるんだろうか。
毎日一緒に登校して、放課後も一緒に遊んで、休みの日には二人で買い物に行ったり、映画を見に行ったりするのだろうか。
あ、やばい想像しただけで鼻血が出そうだ。
落ち着け俺、まだ付き合ってすらいないんだぞ?
早まるんじゃない。
「ねえ、お兄ちゃん」
「どうした?」
「わたしのこと好き?」
「す、好きだぞ」
「どれくらい?」
「どのくらいって……世界一かな」
「そ、そうなんだ……」
そう言うと、妹は顔を赤くして俯いた。
そして、小さな声で呟く。
「わ、わたしも大好きだもん……!」
それはあまりにも小さな声だったため、俺には聞こえなかった。
「ん? 今なんて言ったんだ?」
「な、なんでもないよ!」
どうやら教えてもらえないらしい。
残念だ。
まあ、いいか。
いつか教えてくれるかもしれないしな。
気長に待つとしよう。
それからしばらくして、夕食の後片付けが終わった。
俺はソファーに座り、テレビをつける。
すると、ちょうどニュース番組がやっていたので、なんとなくそれを見ることにした。
『続いてのニュースです』
ニュースキャスターが原稿を読み上げる。
俺はその声を聞いていた。
その時だった。
突然、俺の視界が歪む。
あれ、おかしいな……。
体が動かない……。
それに、なんだか眠い……。
ああ、そうか……これはきっと夢だ……。
それなら納得できる。
急に眠くなるのも、意識が遠のくのも、きっと夢だからだ……。
そう結論付けたところで、俺の意識は途絶えた。

「……きて……起きて……」
誰かが俺を呼んでいる声が聞こえる。
ああ、もう朝なのか……起きなければ……。
そう思い、目を開けるが何も見えない。
真っ暗だ。
まるで目隠しをされているみたいに。
そこでようやく気づく。
これは夢なんかじゃないと。
なぜなら、体を動かすことができないからだ。
手足はもちろんのこと、口すらも動かせない。
声も出せないようだ。
そんな俺の耳に再び声が聞こえてくる。
その声は聞き覚えのあるものだった。
それもそうだろう。
この声は妹のものだ。
つまり、俺は今、妹に膝枕をしてもらっているということになる。
こんなシチュエーションは初めてだ。
一体どうしてこうなったのか。
確か昨日は……だめだ思い出せない。
頭がボーッとしてうまく働かないのだ。
とりあえず、今はこの状況を受け入れよう。
うん、それがいい。
そうしよう。
そんなことを考えていると、妹が話しかけてきた。
「おはよう、お兄ちゃん」
「お……あ……」(おはよ……う)
「ふふっ、何言ってるかわかんないよ」
妹はそう言って微笑んだ。
相変わらず可愛いなぁこいつめ。
おっといかんいかん、危うく妹に見惚れてしまうところだったぜ。
危ない危ない。
だが、妹はそんなことはお構いなしといった様子で話しかけてくる。
「ねえ、お兄ちゃん」
「あ……」(なんだ……?)
「わたしたち、ずっと一緒だよね?」
「…………」(あ、ああ……そうだな)
「そうだよね」
妹は満足そうにそう言った。
なんだろう、少し様子がおかしい気がする。
いや、いつものことか。
こいつはいつもこんな感じだったな。
まあ、別に気にすることもないか。
それより今の状況を確認しよう。
まず、ここは俺の部屋じゃない。
おそらく妹の部屋だろう。
その証拠に、部屋にあるもののほとんどが女の子っぽい物ばかりだし、ぬいぐるみがたくさん置いてある。
あとはそうだな……本棚に少女漫画が多いことくらいだろうか。
特に変わった様子はない。
強いて言うなら、カーテンの隙間から朝日が差し込んでいるくらいだ。
しかし、問題はそこではなく、俺がなぜこんな状況になっているのかということだ。
まあ、十中八九昨日のことだろうなとは思うのだが、いまいち記憶が曖昧でよくわからないのだ。
うーん、困ったな……。
よし、こういう時は素直に聞くのが一番だな。
というわけで早速聞いてみることにした。


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