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コーヒーとランニングシャツと、おまんじゅう


先日、かなこさんがお父様の事を書かれた記事を読ませていただきながら、私も父の事を思い出していた。

かなこさんとお父様の間には長い間確執があって、生きているうちはどうしても優しく出来なかった。そのことを今後悔していらっしゃる。でもそういう思い出しかたも有ると思う。お父様の好きだった物を食べながらお酒を飲みながら、ごめんねって思いながらお父様を思い出す。まるでドラマみたいだ。


私は父の事が大好きだった。小さい頃から母より父だった。父はカッコよかった。背は高くないけど、細身で、田村正和さんみたいな襟足が長めのヘアスタイルで、三揃いのスーツを着こなす。そしてピアノが弾ける。周りの友達のお父さんを見ても、うちの父みたいなお父さんは他にいなかった。自慢の父だった。


父はコーヒーが好きだった。真夏でも熱いコーヒーを飲む。実家でも、私が結婚してからの我が家でも、父には定位置があって、そこ(椅子)に座って足を組み、タバコを吸いながらコーヒーを飲む。私の夫もタバコを吸う。最近は愛煙家は嫌われる傾向にあるが、私が夫のタバコが嫌じゃないのは父の影響かも知れない。
コーヒーと共に甘いものもよく口にしていた。チョコレートやクッキーのこともあったが、おまんじゅうも好きだった。コーヒーと同じくらい大好きなビールのあてがおまんじゅうだったりした。ビールにおまんじゅうなんて「気持ち悪っ」と思っていたが、最近うちの夫が、ビールのあてにどら焼きを食べたりしているのを見て、血のつながりは無いのになんだか似てきたなあと思ったもんだ。


そんなカッコいい父だったが、晩年夏場に家でよく着ていたコーディネートがある。洗濯でビローンとのびたランニングシャツと、トランクス。ランニングシャツは何枚か持っていたが、いずれもビローンと首の部分がのびて襟ぐりが深くなってしまっていた。うちの娘たちは、晩年の父しか知らない。もちろんスーツを着たおじいちゃんのカッコ良さを知ってはいるが、どうしても「おじいちゃんといったら、あのビローンとのびたシャツを思い出す」とよく言っていた。ビローンとのびたランニングシャツとトランクス姿で、やはり足を組んでタバコをくゆらせながらカッコよくコーヒーを飲んでいた。ふとうちの夫を見ると、上半身裸でトランクスだけでどら焼きを食べていた。考えてみたら、夫はランニングシャツを持っていなかった。



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