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「藤井風」を天才にしないで。【ライブ録】

昨晩、私は天使を見た。神様あるいは仏様かもしれなかった。
何にせよ、「藤井風」が神様からの贈り物であることには違いなかった。

私は日本武道館にいた。藤井風のライブがあったからだ。当選した席は2階の西スタンド。勿論、ステージは遥か遠くに見えた。近いに越したことはない。しかしながらどう見えるかよりもこの空間で風くんの生歌、弾き語りが楽しめることのほうがよほど重要だった。

開園の30分前からは会場のラジオブースから話しているという大阪のラジオパーソナリティの方が風くんについて色々教えてくれた。待ち時間も充実させてくれる心配りはとてもうれしい。

好きなお母さんの手料理は「おにぎりとトーストとサラダ」であること。(手料理と呼べるかわからないものをチョイスするのがまた彼らしかった)
上京してきてから部屋が片付かないこと。食べ物にカビが生えてしまうこと。(冷蔵庫という偉大なる文明の利器をぜひ活用してほしい)

ラジオもおわり、風くんがインスピレーションを受けたであろうアーティストたちの曲をBGMにしながら開園を待つ。

『Fujii Kaze “NAN-NAN SHOW 2020 ” HELP EVER HURT NEVER』

開演19時、一夜限りのステージが始まった。

「帰ろう」

この曲について語るのはとても勇気のいることだ。私にとってこの曲はとても神聖なものだから。それに私だけじゃなくたくさんの人にとって特別な曲でもある。一体どれだけ多くの人の心に届いたか計り知れない。だから、この曲をとても大切に聴いている人がたくさんいると思う。

この曲は少しずつゆっくりと私に染み込んでくる。私の中の痛くて濁って澱んだ部分に優しく触れる。それは白くて温かくてベールみたいで、触れた部分から少しずつ溶けていく。まるで泣いてもいいよと天使が囁くように。彼から贈られる音楽は温かく心に寄り添う。

そして不思議なことにこの曲を聴いている間は誰かと繋がっている気がしてしまう。色んな情景が脳内に浮かぶ。白く狭い自室、眠ってしまった誰かのベッド、死にたかった帰りの電車、夕日が差し込む教室、ひとりになりたかった屋上、小さなピアノの前。それは誰かが孤独に触れている瞬間。どんな場所にいてもこの曲があれば誰かと繋がっていられる。ひとりじゃないと思えるのがこの曲にかけられたおまじないだった。

私ははじめて「帰ろう」を聴いたとき、もしかすると死ぬことはこんなにも心地よいことなのかも知れないと直感した。それは「帰る」行為にはぬくもりがあって愛の元に帰っていくということなんだろう。

羽が舞うステージでピアノを弾く姿は祝福を受けているかのようで、あまりにも神々しくて涙が止まらなかった。

風くんの言葉を借りるならば、「スピリチュアルすぎるかな?」

神様は「天才」が好きだ。いつの時代も現世からすぐに呼び戻しては、私たちの元から奪い去ってしまう。だから私は「天才」なんて肩書きは大嫌いだ。

「藤井風」は天才だと思う。それでいて天使でも神様でも、仏様のようでもある。それでも昨夜のステージで見た彼はやっぱり一人の人間だった。それを知れたことがとてもよかった。

新曲を聴いたとき、正直複雑な気持ちだった。それは私が想像していたものとは大きく離れていたから。「何なんw」「もうええわ」「優しさ」は今っぽく言うとエモい。この3曲は若者が好むようなお洒落な雰囲気だったのに対して、今回は今までとは違う。宣言通り、尖っていて年相応の曲だった。

それは彼が知名度があがって生まれた感情、受けた言葉、反応に対して自分がどう感じているのかがすっかり投影されていて、痛々しく響いた。ここに人間味を感じた。だから新曲がこの2つでよかったと私は思う。

彼は何を手放すべきかいつも考えている。今あるものにどれほど大きな意味があるかを整理しているように思う。そして、大切に祈っている。それは世界のこと、目の前のこと、私たちのこと。それから自分自身のこと。いつもきちんと向き合っている。

だから誰よりも生きることを考えて、抗ってもがいて苦しんでいる。私たちと一緒に楽しく人生を生き抜いてくれる。

あなたは「帰ろう」を神からの贈り物だと言ったけれど、私にとってはあなたこそが神からの贈り物。でもあなたは言うだろう。みんな特別じゃと。

"We are special."

全身で自由に音楽を表現してくれるステージは私たちのこと解放してくれた。抱えていた重荷を全て風くんが音楽に乗せてハッピーに変えてしまった。こんなにもクールなグルーヴに乗ってバイブス感じられるなんて最高以外の何物でもなかった!

そして何よりみんながそれぞれの形で自由に思いきりライブを楽しんでいているのが一番素敵だった。高く手を上げクラップする人、腰でリズムをとる人、ステップを踏む人、泣いている人(ほぼ私)それはきっと誰よりも風くんが自由に舞っていたからなんだろうな。

本当に素敵な夜をありがとう。これからもよろしくお願いします。

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