春といくつかの言葉について

最初の挨拶さえなければ別れの悲しみなんて存在しない。最近そんなことを考えている。気軽に知り合って、別れる時にはいつも必要以上に重く捉えているりこの季節だと卒業なんかを思い出す。

卒業式の朝の電車で聴いた曲を今でも覚えてる。
黒夢『See you』
シド『星の都』
Janne Da Arc『振り向けば』
チェッカーズ『My Graduation』
人格ラヂオ『さくら』

18歳の僕は僕なりに悲しもうとしていた。全く悲しくなかった訳ではなかったけど、当時他校の子と付き合っていて、そっちで頭がいっぱいだったから割とどうでもよかった。その子を近くの公園に待たせていたので、最後のHRもまともに受けず卒業アルバムと卒業証書だけ鞄に詰めて彼女の待つ公園に行った。

一つだけ心残りだったことがある。
卒業式で隣の席にいた高1の時同じクラスですれ違ってしまって結局付き合うことのなかった緑のこと。僕は12組で彼女は11組で卒業式の整列の関係で隣の席になった。高校生の時の僕は何故か達観していて、すれ違ってしまって思い合っていたのに付き合えなかった子の方が引きずることをなんとなく知っていた。

高1の春に何かのきっかけで彼女から電話が来た。当時はLINEが普及していて、グループラインで何かの話で盛り上がった後に個人チャットに移行して何故か電話が来た。暫く話した後に付き合おうという話になったけど、僕はその時隣のクラスの人が好きだったからやんわり断りながら、それでも寂しい夜はよく電話した。
1ヶ月もしないうちに僕はその隣のクラスの子と付き合ったけど、直ぐに終わってしまった。その時に初めて縋ったのが緑だった。卑怯だと感じてはいたけど。

「その子の代わりに私と付き合おう」
そんな言い方がとても引っかかって、そういうのは良くないでしょうとそこからしばらく連絡するのをやめた。

やがて僕らは進級して高校1年生の過程を終えた。池袋の東口にあるもんじゃ屋で打ち上げをしようということになっていたのだけど、ちょうどその日に僕は部活の先輩のさくらと付き合ったので、行かなかった。
そのもんじゃ屋で緑は僕が来ないのを悲しんでくれて、「みつばくんが好きだった」と言ってくれていたのを翌日友達からのLINEで知った。

時が流れて、卒業式の予行練習の時に僕の席の隣に緑がいた。僕がさくらと別れて他校の子と付き合い始めたのはなんとなく身内には知られていた。しょっちゅう校門まで迎えに来てもらっていたし、SNSで過剰アピールしていたから。緑が予行練習のある時僕に声を掛けてきた。

「3年間ずっと楽しそうにしてたのなんとなく遠くから眺めてたよ。久しぶりに、最後に話せてよかった。じゃあね」

そのまま何事もなく卒業式を終えて、僕はだらだら過ごして結局その他校の子とも別れて、その子が友達の元カノだったことが後から分かって、友達からキレられたり、その子が少し頭のおかしい子だったり色んなことが起きたけど、その多くのことは最初はすぐに思い出せたのに今では思い出そうと努めないと思い出せなくなってしまった。

でも、なんとなく春が近づいてきて、卒業式の朝に聴いた曲を聴くと緑の言葉を思い出す。
黒夢の『See you』を聴いて愛しさにサヨナラ言うよ。

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