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三菱の至宝展at三菱一号館美術館(2021/09/09)

2021年6月30日から9月12日まで開催されていた「三菱の至宝展」のレポートです。個人的に、ここ近年で一番「想定外」な展覧会でした。当然、面白い展示でしたよ!

曜変天目が出る!

私がこの展覧会の開催を知ったのは2020年の2月。これを書いている時(2021年10月)から遡ること、なんと1年半前。
「曜変天目茶碗」が展示されると聞き、これは是非とも行かねば…!と思ったのでした。

「曜変天目茶碗」とは。
現存するものは世界でわずか4点しかなく、そのすべてが日本にあり、3点が国宝、1点が重要文化財という、まさに日本の至宝です。
作成されたのは南宋時代の中国とされていますが、これが中国で作られて日本に持ち込まれ、かつ日本にしか残っていない経緯は謎に包まれています。
さらに恐ろしいことには、現代の技術をもってしても曜変天目のこの模様を完全に再現することができていないのです…!

曜変天目茶碗はそれに纏わる物語もミステリアスですが、何よりもまず、こちらの写真をご覧ください。

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図録を撮影した写真ですら(えー)、くらくらしそうな美しさです。
この美しさは「器の中に宇宙が見える」とも評されています。
というわけで、以前から是非とも現物を見てみたい!と思っていたのです。

ところが。
本来ならば2020年7月からの開催だった三菱の至宝展ですが、ご存じの事情により突然の会期変更となりました。

予定より、なんと1年も待つことになるとは。
そして当然、その間すっかり展覧会のことを忘れておりましたが(コラ)、さすがの私も「曜変天目茶碗が見たい!」という気持ちだけは忘れていませんでした!

その割に、会期終わり間際の9月9日にこの展覧会に行っていますけどね!(いつものこと)

三菱一号館の美しさ

というわけで初めての三菱一号館美術館。この建物は、旧・三菱財閥が明治27年(1894年)に建築した三菱一号館を復元して作られた美術館です。そんなわけで、館内をちらりと撮影しても「映えます」。

エントランス。

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天井。

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階段。

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三菱の至宝はとんでもなかった

展示物は撮影禁止のため、ここからの写真は図録を撮影したものとなります。

この展覧会は、三菱の創業から4代に渡って社長を務めた岩崎家が収集した「至宝」を一挙に展示する内容となっています。私が注目していた曜変天目茶碗もその一つとなるわけですが、私のミスは、それ以外の展示品についての情報収集を完全に怠っていたことでした。

この展覧会、曜変天目茶碗を含め、国宝がなんと12点も出ていたのです…!特に私が仰天したのはこのあたり。

・俵屋宗達「源氏物語関屋澪標図屏風」

迫力ある大きさと臨場感で、源氏物語の一場面が描かれています。

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・倭漢朗詠抄(写し・11世紀)

使われている唐紙が美しいです。

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・司馬遷「史記」(写し・12世紀)

・「文選集注」(平安時代)

中国から渡ってきた文選集に、日本独自の注釈が書き加えられているために国宝となったそう。

これ以外にも重要文化財、重要美術品のオンパレード

・「漢書」(12世紀)

・慶派「木造十二神将立像」(1228年頃)

作者は運慶・快慶の流れを組む仏師と考えられています。表情豊かで、彩色は痕跡だけになってしまっていますが、それでも十分美しいです。

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・兼好「徒然草」(写し・1431年)

これらを一挙に見る機会なんて、そうそうあるとは思えません…!通常は、静嘉堂美術館と東洋文庫に分けられて収蔵されているこれらの「三菱の至宝」が、三菱創業150周年を記念して集められ、展示されているのがこの展覧会なのです。(そこまできちんと予習しときなさいよ!自分)

これ以外にも「えっ、こんなものまで?」というものが。

・「伊勢物語」(写し・16世紀)

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・紫式部「源氏物語」附 花鳥丸文蒔絵源氏物語書物箪笥(写し・19世紀)

古文で「嫁入り道具に源氏物語を持たせる」という一節が出てくることがありますが、その時はこういう風に持っていっていたのかな?って思いましたね。

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海外の至宝ももりだくさん

今回の展示品は日本国内で収集されたものだけでなく、海外から収集されたものもありました。

・マックス・ミューラー「リグ・ヴェーダ」(1849-1873年刊)

・マルコ・ポーロ「東方見聞録」(1485年刊、1556年刊、1664年刊)

それぞれ、ラテン語、フランス語、オランダ語で書かれていました。

・イエズス会「イエズス会士書簡集」(1780-1783年刊)

マリーアントワネットの蔵書、実物とのことです。

・メルカトル「北極図」(1619年)

メルカトルが直接作成に携わったメルカトル図法の地図。

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・シーボルト「日本植物誌」(1835-70年刊)

シーボルトの妻、お滝さんの名前が学名につけられた、アジサイのページが展示されていました。

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・グールド「アジアの鳥類」(1850-83年刊)

リトグラフ刷りでとても美しいです。

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・「聖書」(1686年)

ルターが、新約聖書と旧約聖書をドイツ語にして1冊にまとめた版だそうです。それってなんて宗教改革。

と、書いているだけで世界史を学びなおしているような気分になるのですが…。本当にとんでもない品ばかりです。

忘れた頃に曜変天目

…とまあ、きらびやかな展示品に目を奪われ、すっかり忘れてしまっていました!当初の目的だった曜変天目茶碗。

曜変天目茶碗は、照明を落とした一室の真ん中に、周囲360度のどこからでも見れるように展示されていました。

見に行ったのが平日だったせいか、近くで周囲をゆっくり巡りながら、そして少し遠くから、いろんな方向から曜変天目茶碗を見ることができました。見る方向や角度が少し変わっただけで、藍の色合いや星の輝き具合が少しずつ変わっていきます。

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聞いていた通り、曜変天目茶碗は「宇宙」でした。思わず溜息が出ます。

曜変天目茶碗の周りを2,3回巡って、見ていたのは一瞬だったのか、それともわりと長時間だったのか、よくわからないまま展示室を出ました。

「消えゆく文化を残す」ということ

個人的に、とても印象的な展示品がありました。

「写本チベット大蔵経」を始めとした、チベット仏教関連の品でした。

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中国による弾圧によって、チベット本土にある仏教寺院や所蔵品は徹底的に破壊を受けました。ダライ・ラマを始めとしたチベット仏教関係者が亡命したことにより、宗教自体の断絶は免れましたが、それでも貴重な仏教関連の遺産は失われてしまいました。

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そんな中でも、岩崎家当主三代目の久彌が収集した東洋関連の学術資料の中にこれらの品が含まれていたため、今回の展覧会でチベット仏教のゆかりの品が人々の目に触れられるようになったわけです。

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岩崎家のコレクションは、単純な美術品収集というよりは、消えゆく文化や時代を残すための収集という側面が強いのだな、とこの展示を見て思いました。

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東洋文庫は、実は私の家から近所にあるのですが、どんな施設なのかイマイチよくわかっておらず…行ったことがなかったのです。

今回の展覧会は、東洋文庫の所蔵品が多く展示されていたとのことなので、今度は東洋文庫にこれらの品を見に行こうかな、と思いました。

以上です。


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