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山本太郎という男【書評】『#あなたを幸せにしたいんだ』

 国会議事堂の裏手に議員会館と呼ばれるビルが3つ建っている。国会議員に当選すると事務所として中の一部屋を割り当てられるこの建物は、いまでこそ現代的なオフィスに建て替えられたが、十数年前までは年季の入った建物で事務所として狭く使いづらかった。なので国会議員はある程度のところまでいくと、近辺に別途事務所を構えることが多く、こうした外事務所(そとじむしょ)にスタッフを置き、家賃を支払って、手下の議員や役人を呼びつけることがある種の力の象徴になっていた。永田町近辺には物件も少なく、議員会館、日枝神社、日比谷高校に挟まれた十全ビル、TBRビル、パレロワイヤル永田町の3つのいずれかに外事務所をもつケースが多かった。
 いまでは議員会館の事務所も広く使い勝手がよくなり、外事務所を持っている政治家もほとんどいない。

 2013年に兄が参議院選挙に当選すると、出来上がってまだ数年のピカピカの参議院議員会館の3階に事務所を割り当てられた。3階には同時期に当選したアントニオ猪木さん、元巨人の堀内恒夫さん、そして山本太郎さんの事務所が入居し、さすが有名人の多い参議院だなと思った。

 議員会館のトイレはフロア共有で、小便器の前で用を足していると思わぬ偉い先生が隣にきて緊張が走ることもある。トイレだけではなく喫煙所も階ごとの設置で、ある日、同僚秘書が「XX先生(元アイドル)と一緒にタバコ吸ってきました!!」と興奮しながら帰ってきたこともある。一緒にというか、ただ居合わせただけなんだけど、そういいたくなる気持ちはわかる。

 永田町では、秘書は見えないような、黒子のような存在だ。「議員のみ」と明記された会合以外は代理で出席することができ、議員を撮影するためには一般常識では考えられないところまで入り込むことが黙認されていたりする。ただし賛否を表す拍手や発言はすることができず、秘書は居るのにいない扱い、まるで透明人間だなと感じることもある。

 そんな普段は透明人間の秘書だが、同じフロアの事務所のご近所さんである山本太郎さんには見えているらしく、廊下やトイレですれ違うと、

「こんにちは」

 と挨拶をしてくれるのだ。私は兄と似ているので、議員の兄と勘違いされているのかなと思ったが、同僚秘書にも同じように挨拶するという。議員が知り合いでも何でもない秘書に挨拶をするのは珍しい。
 意外にも秘書仲間の山本太郎さんの評は、勉強会に最後まで参加する、物腰が柔らかい、真面目だというものだった。(ちなみに、私も秘書仲間も第三極や自民系なので彼とは思想信条は全く違うし、賛同もしない。)

 彼はよく議会規則を破ったり、問題発言をしたり、トラブルメーカーとして報道され、周囲の評とはずいぶん異なる。これも確信犯で、炎上マーケティングといえばそうなのだが、もっと根本的な挑戦のようにも思う。

 つまり、民主主義とは多数決なので、民主主義のルールに従順にしていれば、少数野党である山本太郎さんの意見は(淡々と多数決で決められて)一つも通らない、だとしたらルール外で主張し、抵抗するのも戦略だろう。もちろんルール破りは相応の罰を受けるべきだが、彼は真面目に野党をやっているのだ。本来の彼の性格である、物腰柔らかくまじめな性格を表にせず、支持者に求められている、必死で、なりふり構わず、ときに破壊的な姿を演じきっているのはさすが俳優出身だ。

 本書、『#あなたを幸せにしたいんだ』は2019年の参院選のれいわ新選組の候補者たちの演説をまとめたものだ。候補者は難病、重度障がい者当事者や、東大教授、大手コンビニとトラブルになったFCオーナー、創価学会を批判する創価学会員、派遣労働者ら、よくここまで集めたなという多様なメンバーが、それぞれのバックグラウンドを背負って政治への思いを熱量の高く訴えている。ふつう、演説はそのときの雰囲気に合わせたり、そのとき限りの言いっぱなし感が強いものなで、こうした演説集として活字で残すのは珍しい。逆に言えば活字として残せるほど、候補者の思いが濃いということだ。
 まぁ、どんな党派であれ、新人候補の演説というのはピュアで、志と思いに溢れていて聞いていて(読んでいて)心地が良い。

 最近自民党の不祥事が続いているが、これだけ世間を騒がせてもなお、業界内では「これのどこがいけないんだ?」という感じがどこかにある。「永田町の常識は世間の非常識」とは昔から言われているが、私も秘書や地方議員を務めて10年を超え、知らず知らずに染まっている部分もあると思っている。本書でピュアな思いや志に触れて、国民のため住民のため、初心を忘れず、これからの活動につなげていきたい。

「山本太郎なんて大っ嫌い」。申し訳ありませんが、私、そういうの大好物です。
 全く相いれないと思われる者同士であっても、たったひとつ、ひとつでも力を合わせられる部分を見つけられるように、話がしたいのです。

山本太郎『#あなたを幸せにしたいんだ 山本太郎とれいわ新撰組』

 本当の性格を捨てて、支持者の好みを演じ切って、こんなカッコいいことを言う、山本太郎なんて大っ嫌いだ!!

(参考)
※以下のレビュー記事を読んで本書を買って読みました。ぜひ合わせてご覧ください。

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