大工が考えるSDGs!明治と令和をつなぐ古民家宿で、木から与えられたものに浸る
こんなところにサステナブル vol.5
こんにちは。コピーライターのつかもとちあきです。
前回に引き続きご紹介する「リノベーション」の取り組み。今回はリノベーションの「つくり手」にフィーチャーしてお送りします。
岐阜県大垣市にある古民家を再生した民泊「アップスタイル大垣」(https://up-style-ogaki.com/)を訪問してきました!
明治初期の建物をリノベーションしてうまれた民泊「アップスタイル大垣」。1階にはいろりのある大広間、和室の寝室と水回り、2階には洋室の寝室があります。
甲陽建設工業株式会社(https://www.kouyou-kk-inc.com/)の代表で、自ら古民家を買い取ってリノベーションを行い、民泊「アップスタイル大垣」のプロデュースまで手掛けた、建築大工の甲村義孝さんにお話を伺いました。
伝統も、快適も、両立させてこそ
―古民家を再生する過程で、どんなことが心に残っていますか?
甲村:大工が使う業界用語って、昔から変わっていないものが多いんだと気づきましたね。例えば、“番付”。今の建築学でいう“座標”の意味と近いんですけど、どの木材を、どの場所にあてはめていくか分かるように、木材に“いろはにほへと”でしるしをつけるんです。僕は16歳で大工を始めて、それが体にしみついているので、実際にここへきて、昔の大工さんが柱につけた“いろはにほへと”のしるしを見て、あ、同じじゃん!と。なんだか昔の人と心がつながったように感じました。
―なるほど、仕事の進め方が共通していたんですね。
甲村:そうなんです。今でこそ長さは“センチ”、“ミリ”の単位が一般的に用いられているけど、僕が弟子入りした頃はわりとみんな“尺”で会話していて。そういうところも、今回の古民家再生に当たって活かされていますね。
ちなみに、“いろはにほへと”の“い”から“ろ”までが3尺で、909ミリなんです。ぴったり900ミリじゃない。だから“あそび”がうまれるんですが、湿気を含むと広がり乾燥すると縮む特性がある木材には、この“あそび”がけっこう大切なんです。AIにはきっとこの感覚、分からないですね!
壁は、土壁の上に強化剤を塗って強度を保ちつつ、「今あるものを壊さずに」を一貫して意識していたため、立派な梁は元のままを維持しています。
―民泊として運営するため、アメニティや家電をうまく古民家と溶け込ませていますよね。
甲村:宿泊施設ですから、寛いでほしいんです。すべてを昔の生活様式に合わせてガマンするんじゃなくてね。非日常の空間で、“ごほうび”のような気分に浸ってほしいと思いました。
厳選したスギを使って仕上げたバスルームは、楽しみ方が多彩。窓を開放して半露天にすれば、森林浴のようなすっきりとした気分に。また、ミストサウナ機能を使うのもおすすめ。Bluetoothスピーカーも備えているので、お風呂に浸かりながら自分のプレイリストを楽しむことができるプライベートスペースです。
―古き良きものを残しながら、その良さが伝わるように、現代人向けに改築していったんですね。消防や建築関係の法律との間で、苦労された点もあるんですか?
甲村:新築ではないので、“開けてビックリな部分”というのはありましたよ。避難経路の確保を第一に、動線を見直しました。今ではありえないような急な階段や、暗くて狭い浴室は、安全性の面から全面的にリニューアルしました。あと、目に見えない部分も新調しました。木造で長い間手入れをしていないと、蟻害や、湿気による腐食が進んだりしますからね。
甲村:テレビだけは置きたくなかったんです。なんというか、“ごほうび”という気分にはならないでしょう?代わりに、大きめの本棚を設置しました。普段読まないような洋書や図鑑、絵本など、これから個性的な本を選んで置きたいと思っています。作家の作品を展示するのもいいですよね。ものが無いことが、最高の贅沢。そう思っていただける空間にしていきたいです。
水都・大垣名物、鮎料理を食す
水都といわれる大垣は、川の恵みに支えられてきた街。なかでも川魚の代表格である鮎を使った料理が美味しいということで、フルコースをいただきました。
「あゆ料理 夏川」の料理人・杉山英央さんによれば、かつては天然ものが重宝されてきたものの、今は養殖が主流。品質管理が徹底されているため、焼きはもちろん、刺身でも安心していただけるのだそう。
コースの目玉は、刺身。冬~春の間は鮎の代わりにイワナの刺身がいただけます。透き通った身は食感がよく、淡泊というより甘みがあって心地よい味わいでした。
どのお料理も、しっとり、ふっくらとした鮎の食感がていねいに引き出されていて、いつまでも余韻が残り、幸せな気分に浸ることができました。
―カスタマーレビューで「誰にも教えたくない」とコメントいただいたと仰っていましたが、まさに、その言葉通りです。飾り立てた誉め言葉はいらない、本当に心がすーっと気持ちよくなる空間とお食事で、ちょっと秘密にしておきたいです。みたすくらす読者の皆さんには、ぜひ、訪れていただきたいですが(笑)!
甲村:秘密にしておきたい、けど、伝えたい、みたいな(笑)。不思議ですよね。決して目新しいものを提供しているわけではないんです。「今あるものを壊さずに」を意識して、取り組んできただけです。
「山に帰らせてくれ」と、木の家が苦しんでいるようだった
甲村:僕は新築を何軒も建ててきたんですが、間取りは違えど、基本的なつくりは一緒ですから「結局、何軒建てても同じ」っていう気持ちになったことがありました。そんなとき、愛知県新城市の現場で古民家を見たんです。裏山にはりつくように、ひしゃげて、倒れてしまっていた。その家から、なんだか「山に帰らせてくれ」って聞こえた気がしたんです。ああ、家の役目を終えても木は生きているんだと、そのとき強く感じました。
甲村:物価高は続いている。一方で、空き家は増えている。それでも新築にこだわるのは、日本独特でしょうね。海外にはもっと古い家を活かしたりDIYする文化が根付いていますから。木の家を解体して燃やし、ごみにしてしまうのではなくて、日本が誇る木造建築や国産材を循環させていきたいというのが、大工としての僕の想いです。
―木を“活用”してつくった空間を、いろんな人に“活用”してほしいですね。
甲村:そう思います。僕は木が好きだから、木のように、自分も“与える”仕事をしたいと思っています。いろんな人に、チャンスを与える仕事。例えば「子ども工務店」を開催して、大工道具を実際に使いながら、小さな小屋づくりに挑戦してもらうことで、子どもたちにつくることの楽しさや、木への愛情を深めてほしい。マルシェやフリースペースとしても貸し出して、大人になったからと言って挑戦を諦めるんじゃなくて、新しいことを始めようとする人を応援したいです。
木が大好きで、木を活かしたいと心から願う甲村さん。お土産にと、木製の鍋敷きとコースターをいただきました。現場で出た端材を再生し、木目が浮き出るように「うづくり」加工を施してくださいました。木の表情が豊かに感じられます。木のよさを知っているつくり手だからこそ、伝えられることがあると信じて取り組む甲村さんの本気が、新しさ、よりも輝かしい、古民家の魅力を浮き彫りにしているように思えました。
これから鮎の本格シーズンが到来!夏には近くの大垣ひまわり畑の散策も楽しいです。ぜひ、仲間や家族と、SDGsな旅にお出かけください。