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小説評論

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記事一覧

太宰治 『魚腹記』から学ぶ死とは何か

『魚腹記』の解剖                          まずは、冒頭部分。『魚腹記』では、「本州の北端の山脈は~」と物語の舞台となる場所の説明から入る。スワの視点や気持ちから入らず、場所の説明から物語に入ることで読者が現実の世界と虚構の世界とを分かつ「敷居」を容易に跨ぐことができる。特に、この『魚腹記』は、「山奥の小屋で暮らす親子の物語」という、現実とは少し距離がある話なのでなおさら説

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『僕は勉強ができない』山田詠美 から学ぶ個人力が強くなった経緯

『僕は勉強ができない』 山田詠美
 主人公の男子高校生、時田秀美は勉強ができない。というより、勉強ができることに価値を見出さないのだ。部活はサッカー部に入っており、女子にもてる。おまけに年上の彼女もいる。今でいうところのリア充だ。しかし、どこか社会や大人に対して反抗的な考えを持っている。その原因の一つが、秀美が幼い頃、両親が離婚しており、父親と一緒に住んでおらず、昔からことあるごとに「父親がいない

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江國香織 『落下する夕方』から学ぶ小説と映画の魅せ方の違い

 江國香織といえば、『号泣する準備はできていた』や『きらきらひかる』などに代表されるような恋愛小説作家として有名である。1996年に出版された『落下する夕方』も例に漏れず、恋愛小説である。恋愛小説というと爽やかな「青い」恋愛をイメージしがちだが、江國の小説はそうではない。もっと言葉にし難い複雑な感情が絡む「大人の」恋愛を描くのが江國の小説の特徴である。
『落下する夕方』という題名からも想像できるよ

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太宰治 『魚腹記』から小説技法を学ぶ

○「反復」からみるスワの「死」
四章でスワは鮒になり、滝壺のなかへくるくると吸い込まれていく。私は、スワはそのあと死んでしまったのではないかと考察する。
一章で、学生の死をスワが15歳の時に目撃したことが語られる。二章の「つまりそれまでのスワは~といぶかしがつたりしていたものであった。」と「それがこのごろになって、すこし思案ぶかくなったのである。」の間で学生の死を目撃し、彼女に自意識が芽生えたこと

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推理小説をエンタメにした木々高太郎の功績

推理小説の世界で木々高太郎が担った役割
推理小説の名付け親で、推理小説は文学的・芸術的でなければいけないとした木々。「探偵小説は芸術とは別」とした甲賀三郎や、「謎が論理的に解き明かすことを主眼とした文学であれば探偵小説」とした乱歩と論争も起こした。木々の作品はその言葉通り、人の生活や心情を丁寧に描いた作品が多く、探偵小説(推理小説)という枠を超えて楽しめるものが多い。
木々が出した探偵小説の第1作

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