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人生のピラミッド

大好きな映画、『God Help The Girl』。サウンドトラックは今でも頻繁に聞きますが、最近久しぶりに本編を鑑賞しました。初めてこの映画を見た2年前よりも将来のことを考える難しさや現実と向き合う厳しさ、等身大の悩みがより伝わってきて苦しくなりました。

この作品は人気バンドのフロントマンが監督を手がけたためか、ビジュアルや音楽が先行して評価されがちですが、
物語を繋ぐ音楽、ファッションを始めとした視覚的な要素、恋や友情といった演出が複合的に作用し、一つの作品としてバランスよく構成されています。


2年ぶりに鑑賞した上で一つ、大きく考えさせられた点がありました。それは本編に登場する人生のピラミッドと均衡に関する話です。

映画のあらすじやこの場面に至るまでの経緯は省きますが、主人公が精神病院の先生から『人生の仕組みを表したピラミッド』の話をされるシーンがあります。
以下、日本語字幕を噛み砕いてまとめたものです。


人生を表す三角形のピラミッドがあり、誰もが底辺から始めて、上を目指していく。

最下層には食べ物や水、最低限のものがあり、これがあって初めて次の段階に進む。

真ん中の層には家や家族、友人、お金、人間関係。

そして頂点に芸術や道徳、音楽がある。

もし頂点が墜落しても下層が支えるが、最初に頂点にいくと支えがなく崩れてしまう。


どれが良いか悪いか、芸術が高尚か否か、という話ではなく、生きるために必要な単位として積み重ねる優先順位に対する言及です。
これを聞いた時、自分の中でストンと腑に落ちる部分がありました。

私は最初に頂点へ行くことの危険性こそがこの場面で最も強調していた部分だと考えているのですが、これに陥りやすい気質の人間はかなり多いのではないかと思います。
自分自身も、気持ちが不安定な時はいつも最下層が自分の中で中々固まっていなかったのだろうと思います。それなのに何かしなければと焦り、真っ先に手を出すのはいつも頂点です。それが気晴らしになることもありますが、頂点に依存していつも自分を追い込む事が多いので、最下層を見直すところから始めるべきだったなと反省しました。
実際本編でも主人公が摂食障害で入院しているシーンから始まるため、

「食」やその他の最低限のラインが欠けていると考えられますし、かなり人生の基盤が不安定であることがわかります。

しかし、このピラミッドに準ずる生き方が必ずしも正解ではないのだとも思います。本編ではピラミッドのバランスが頂点の「音楽」に偏った主人公が、周囲を巻き込み自身の音楽を作りあげていく様子が魅力的であり、その力強さと行動力に鑑賞者は感銘を受けるのです。
あくまでも指針であり、ただ、ピラミッドが不安定な分の弊害は必ずどこかに存在する、というのが一番正しい解釈なのかなと思っています。



精神的なピラミッドといえば、マズローの欲求5段階説があります。ピラミッドと聞くとこちらの印象が強いですが、案外重なる部分もあります。

https://prdx.co.jp/visions-prdx/maslow/より

人間の欲求を5段階のピラミッドで表したものですが、こちらも最下層の生理的欲求から一段ずつ満たしていく必要があるとされています。
実は下半分あたりは殆ど共通しています。生命を維持したい、安全に過ごしたい、という欲求は『最低限のもの』と考えられますし、集団への帰属を求める社会的欲求もほとんど同じです。

上層の承認欲求、自己実現の欲求に関しても、ある程度は共通していると考えます。ただ芸術、道徳、音楽の3つに限定し、頂点として括った点はこの映画ならではだと言えます。
本来なら自己実現には無限の方法がありますし、承認欲求も同じです。ただおそらく主人公目線で解釈されたピラミッドであり、そのため芸術や音楽のみに焦点が当てられています。だからこそ音楽や芸術を愛する人々から支持される作品なのかもしれません。
また、前者は生きる上での考え方とされており、後者のマズローは欲級を満たすための段階であるため、やはり趣旨は少し違います。


映画で紹介されていた『人生のピラミッド』には明確なエビデンスや出典元があるわけではありませんが、マズローの説を基に映画向けに捉え直したのではないかと考えられます。




さて、もう1点私がこの映画で好きなものがあります。それは主人公の髪型の変化です。
どういった経緯で変化するのかは割愛しますが(本編を見てほしいので)ロングからボブに、そして茶髪から金髪に2回変化します。
私自身は元々突飛な行動が多いのもありますが、突然髪を切りたくなることがあり、髪を切ることでそれまでの期間に貯めた怨念を切り落とそうと思う瞬間があります。あまり深い意味はないのですが、この表現は何年も前から使っていて、髪型の変化と心境の変化は表裏一体だと考えています。髪型が変わった瞬間、主人公の纏う空気感がガラッと変わります。こういった演出も、感情移入しやすくて個人的には大好きです。

途中でピラミッドの話から映画の話に逸れてしまいましたが、何といっても作中に流れる曲が本当に素敵で、若者の敏感な気持ちの変化を繊細に表現している作品です。

ストーリーの強度はそこまでないので、物語を最重視する方には中々向かないかもしれませんが、音楽を愛するすべての方にみてほしい一作です。

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