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マタハラによる鬱病が業務災害によることから退職扱いは許されない争った事例①(平成30年1月26日岐阜地裁)

概要

被告(歯科医院の院長)に雇用された歯科技工士の原告が、労働契約又はこれに関連する被告らの不法行為に基づいて、被告らによる産休及び育休の取得に関する嫌がらせ等の違法な行為により、うつ病を発症したために休職に至ったにもかかわらず、被告が、原告の休職事由が休職期間の満了日までに解消されなかったことを理由に原告を一般退職扱いとしたことについて、業務上の傷病の療養のために休業する期間中において当該労働者を退職させることは許されないと主張して、被告cに対する労働契約上の権利を有する地位にあることの確認請求、及び、未払賃金等の支払を求めた。(コメット歯科クリニック事件)

結果

一部認容、一部棄却

判旨

副院長が本件有給休暇の取得を拒絶したことについて不法行為が成立するところ,本件有給休暇の取得に係る有給休暇願の宛先は院長とされていることに照らせば,本件有給休暇の取得の不承認に関する最終的な決定権者は本件クリニックの院長であると推認できるのであって,副院長と院長とが本件有給休暇の取得の拒絶につき共同して行ったものと認められるから,院長と副院長の共同不法行為が成立し,また,副院長が,元従業員に対し,技工指示書を渡さなかった行為について不法行為が成立するところ,副院長の上記行為については,院長もその旨の指示を出していたと認められることからすれば,副院長の同行為につき院長が共同して行ったものと認められ,院長につき共同不法行為が成立し,そして,本件クリニックにおける朝礼は,従業員らが全員参加するものであることに照らし,業務の一環と位置付けられていると評価できるから,副院長の上記行為につき,本件クリニックの院長である院長は,民法715条に基づき,使用者責任を負うというべきである。

本件退職扱いは,元従業員が業務上の疾病にかかり療養のために休業していた期間にされたものであって,無効であるといわざるを得ないことに加え,院長は,元従業員の退職日について,その取扱いには一貫性が認められず,雇用関係の終了は,使用者にとっても労働者にとっても重要な局面であることからすれば,このような一貫性のない曖昧な取扱いによって,元従業員を一般退職扱いとすること自体,相当性を著しく欠くものであり,また,院長は,元従業員の退職は休職期間満了による一般退職扱いであるとしているものの,その当時における元従業員の傷病の状況を照会することもなかったことからすれば,当時の元従業員の休職事由該当性の有無について特段の検討もしないまま,一般退職扱いとしたものであって,この点からしても院長の対応は相当性を欠くものであること等から,院長が行った本件退職扱いは違法であり,不法行為を構成するというべきである。

本件精神疾患の発症には,業務起因性が認められるところ,本件退職扱いは,元従業員が業務上の疾病にかかり療養のために休業していた期間にされたものであって,無効であるといわざるを得ず(労働基準法19条1項類推適用),また,使用者たる院長の責に帰すべき事由によって,労働者たる元従業員が債務の履行として労務を提供することができなくなった以上,元従業員は労働契約に基づく賃金支払請求権を失わないが,元従業員は,第二子及び第三子を,それぞれ出産しているところ,第二子の出産前にも産休及び育休の取得を希望し,育休中の社会保険料の免除も申請しようとしていたことからすれば,第一子の出産時と同様,少なくとも出産日の2週間前から産休の取得を予定し,出産後1年間については育休を取得していたものと考えられるから,当該期間については,賃金支払請求権は発生しない(本件就業規則),平成28年6月20日から平成29年6月27日までの期間及び平成30年7月12日以降について,労働契約に基づく賃金支払請求権を有している。

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