無題

月光蝶

※文章の音声化についてはこちらをお読みください。
https://note.mu/misora_umitosora/n/nc76e754673e5

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 その蝶は月明かりの中で美しく飛び回る。
 月光蝶。
 清白な月光を浴びて舞う姿は見る者の目を奪う。優美な動き、華やかな装い、鮮やかな色。一度目にした者はその姿が忘れられず魅了されると言う。

 ある晩青年が月光蝶に出会い、そして尋ねた。
「何故月明かりの下でしか飛ばないの?太陽の光を浴びた君はもっと綺麗に見えるだろうに」
 月光蝶はその言葉に強く惹かれた。星々が不安そうに囁く。
「日の光を浴びてはいけないよ。お前は弱く脆い。日の光を浴びたらもう二度と飛ぶことは出来ないだろう」
 月光蝶は返す。
「日の光は私を美しく輝かせる。飛べないならずっと花の上で休んでいるわ。それでも人々は私の美しさに魅入り褒めてくれるでしょう」

 月光蝶は朝を待った。そして日の光の事を教えてくれた青年の元へと急ぐ。
 青年はすぐに見付かった。嬉しくて嬉しくて蝶は青年の周りを飛び回る。すると青年は言った。
「汚い蝶だ。あっちへ行け」
 蝶は慌てて話しかける。
「私よ。あなたの愛してくれた月光蝶よ」
「月光蝶がそんなに醜い訳がない。自分の姿を見てみなよ」
 蝶は驚いて朝露に自分の姿を映し見た。そこにはくすんだ色、ボロボロの羽を纏った自分がいた。
「そんな姿のお前が、あの美しい月光蝶のはずがない」
 蝶はその言葉に胸を射られ、その場に泣き崩れる。
 日はいよいよ高くなり蝶の体を焼いた。

 それ以来、月光蝶の姿を見た者は誰もいない。

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清白:せいはく
脆い:もろい
応える:こたえる
纏った:まとった


人称や語尾変更ご自由にどうぞ。
素敵な写真は下記サイトからお借りしました。
妙の宴 http://sozai-en.com/

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