強制恋愛

 つくづく、私は不器用な人間だと思う。

 仕事で、ある俳優をオススメするための紹介文を書くことになった。それは去年から担当している仕事のひとつで、初めて自分で立てた企画を取引先との話し合いから窓口まで担当している。自分がやりたくて始めた仕事だから、紹介文を書くことに抵抗はない。映画を観ることは生活の一部で、むしろ、そんな楽しい仕事いいんすか!イエ―!って感じ。
 しかし、これが全く進まないのである。思ったよりも進まなくて、自分でも驚くくらいには進まない。

 これまで、上映のタイミングが合っていたということもあるが、自分が好きな俳優ばかりを取り上げていた。筋肉隆々で、まさにスーパーヒーロー。そんな人たちばかりだ。結婚できるなら地球の裏側で全裸で土下座するぜ! みたいな勢いで好きな人だった。
 しかし、今回紹介することになった俳優は……私が彼を初めて知ったのは、彼の妻がきっかけで、結婚したいなんてとんでもない。既婚者と独身とでは、こちらの見方も大いに変化するのである。既婚じゃなければ、私にも確率は数パーセント残されているわけですから。名前を見てもいまいちピンとこず、某情報サイトを見て「あー! 〇〇の夫ね!」という感じだった。彼のことをどれだけ調べても、私の頭の中に最初にくるのは彼の愛らしい妻のことばかり。彼女のことを、私はとても好きだったからだ。
 でも、仕事だし。とりあえず、彼の出演作を端から見ていこう! と、本格的に仕事に取り組むまでの約2週間の間に、彼を知るにはちょうどいい王道のシリーズや他の作品も、とりあえず観ていくことにした。本当に、文字通り、片っ端から。

 しかし、書けない。なんで?っていわれたら、単純である。私が“惚れていない”から。彼はめちゃくちゃカッコイイ。本当にカッコよくて、スマートで、どんな写真を見てもはわ~となってしまう。でも、それは私にとっての“惚れる”ではない。私にとっての“惚れる”は、気持ち悪いとは思うが妄想だったり、本当に恋に落ちたように四六時中ずっと考えられること。直接顔を合わせたことがなくても、仕事中も熱に浮かされたようにデスクに飾った写真を見たりする、そのレベルにまで達していないと語れないのだ。
 でも、これは仕事。できるできないの問題じゃなく、やらなくてはいけない。それからは、今まで以上に彼のために自分の時間を使った。とにかく、彼の映画を観ない時間はないというくらいにDVDを会社でも自宅でも流しまくって、映画のDVDを流しながらYouTubeでインタビューを観たり、何を話しているのか分からないトークショーもひたすら見た。とにかく、ひたすら。24時間中30時間は彼のことを強制的に考える状況を作っていった。
 これがまたしんどいのである。その期間、約2週間。誰かのことを、考えなくてはいけない状況に押し込まれることがこんなにしんどいとは。
 といいつつも、毎日何かしらの作品を観ていると、新たに見えるものがあることも事実。それが、彼の持つ“隙”だ。役柄を演じていることは理解しつつも、やはりちょっと抜けたようなキャラクターを演じているのを見て、私はようやく心を動かされた。

 それは、漢同士の熱い戦いを描いた作品で、お目当ての彼はどこか野性味あふれる厳つい男を演じていた。いつものブリティッシュなスーツを着こなすイメージとは少し程遠く、どこか拍子抜けして好きだなぁと自然に好意が湧き出てきた。
 この波を逃すわけにはいかない……! 好き、好き、私はこの人のことが好きで、ずっと眺めさせてほしいと思っている。早くこの想いをしたためないと……!

 そうして、改めて他の作品も見直すことで無事に仕事を終えることはできたのだが、今回の出来事で私は男性のどこに惹かれるのか、がわかった気がする。
 それは、ずばり完璧じゃない人だ。少し語弊があるかもしれないけれど、私は、ちょっとダメなところを含めてパーフェクト!と思っているみたいなんである。そのほうが人間みがあって、観ていて安心するのかもしれない。地球を守っていても、どこか抜けたところがあったり、パーフェクトなボディを持っていても、よく転んでいたり。そういう、君ってこういうとこあるね!って笑いあえるようなところがあってほしい。それが見つかるだけで、こんなに距離が縮まるんだもの(一方的に)。
 そのほかに、もっと仕事の準備はしっかりとしておくこと!というのも教訓の一つとして掲げておく。次は題材やテーマが決まった瞬間に、マイペースは貫かずに知ることくらいはさっさと始めたい。

 男性の趣味もわかったところで、さて来月は誰のことを好きになることになるのだろうか。仕事でもなんでも、好きな人が増えることは幸せに違いない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?