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【エッセイ】OASIS

(本記事は町民ライターの方に寄稿いただいた記事です。詳細はライター募集の記事をご覧ください。)

ゴーーーーーーーーーーーーーーーー…

ここは、美里町と大崎市松山を隔てる鳴瀬川に建つ橋のある河原。
 
橋というよりも、正式には「国交省鳴瀬川中流堰・農水省鳴瀬川下流頭首工」と云うらしい。近くには管理事務所もあるので、渡り橋よりも鳴瀬川を見守る存在に近いだろう。
 
一般の橋とは異なり、堰から滝のような音を出しながら川が流れている。

わたしはこの場所が好きだ。

でもここはただの目印。本当の魅力は少し違う。

まずこの橋は渡らず、管理事務所の駐車スペースに車を駐める。そして車のドアを開け、堰から奏でられる水の轟音を聴きながら、美しい大空と広い川を眺め、土手を歩く。

この行いが好きなのだ。

たったそれだけ。

人によっては、なんて事の無い風景。

でもわたしにとっては愛おしい情景。

もしかしたら江合川の方からだって、こんな風景を望めるかもしれないけれど。


ただ「毎日、毎週、毎月訪れています」という訳ではない。

ここに何を求めて行くのか。自分がどんな時に行きたくなるのか。

それはシンプルに「癒し」が欲しいから。

ネガティブな感情を抱えているその時の自分に、この景色が力をくれる。


昼間に行ったこともあるけれど、夕暮れ時に足が赴くことの方が多くて。やっぱりそれは、何か物寂しさを感じていたり、日々のやるせなさだったり、明日に対する不安だとか、昨日の過ちだとか、或いは未来への不透明さや、過去への後悔だったり。

そんな漠然とした心を持ちやすい時間帯なのだと思う。

重たい心を抱えて、堰を流れる激しい川の音をBGMに、風に吹かれながら夕陽に向かって土手を歩く。

それだけで寂しい心が落ち着いて、いつの間にか軽くなっている。

これはどことなく海を眺めることに似ている気がする。
 
「海を見ていると悩んでいることがちっぽけに思える」なんて言葉をよく聞く。それは海が広大だからという理由だけじゃなくて、波音も作用しているとわたしは思う。すぐ複雑に考えてしまう人間の感情を、何も考えられないくらい強く逞しい波音が掻っ攫っていくのだと。


そう考えると、優雅に流れる鳴瀬川と、その川を産んでいる船形山が霞んで見える、淡い水色と橙色の相まった空の風景だけじゃなくて、堰からの力強い川音があるからこそ、また明日からも頑張れるような前向きな気持ちになれるのかもしれない。

もやもやした気持ちを掻き消す程のあの音は必須なのだと、訪れる度に感じさせられる。


この場所はわたしにとってオアシスだ。

海のない美里町で、渇いた心に恵みを与えてくれる。

元々水辺が好きだから、過大評価し過ぎてるだけかもしれないけれど、この街で感じられる自然の雄大さのひとつとして、一度訪れてみてほしい。




イヤホンなんてしないで。

そこにある音と風景に身体を委ねて。


【執筆:ずな】1994年生まれ。ノスタルジックなファッションやカルチャーが好き。高校時代から美里町にゆかりがあり、現在は縁あって町民に。ニッチな目線で魅力を伝えられるように…と綴ります。


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