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アジア人というだけでバス・電車乗車を拒否された話

今年の5月に起きたジョージ・フロイドさんの無残な死をキッカケにアメリカは今ものすごいことになっています。フロイドさんは、偽札の20ドルを使った容疑で警察に拘束され、その後白人の警察官が膝で首を8分46秒間押さえつけられたまま窒息死に至りました。

このショッキングな事件を発端にアメリカ各地ではプロテスト運動が連日続いており、私は今ロサンゼルスの中心地であるダウンタウン近くに住んでいますが夜中の2時、3時になってもサイレン、ヘリコプターの音が止まらない。花火の音なのか、銃声なのか分からない音が鳴り止まない・・・そんな騒がしい毎日です。

因みに今回の一連のBlack Lives Matter、プロテスト、警察の暴動など分かりやすくまとめられている記事を見つけたので、詳しく読みたい方はこちらを参照に。

日本に住んでいると、人種差別はイメージが湧きにくい非現実的なものかもしれません。多国籍の人とそこまで頻繁に交流する機会もなかなか無いでしょう。私も渡米したばかりの頃は、全寮制の高校で過ごしていたため、外の世界をあまり知りませんでした。実際にはっきりとした差別を受けたその時まで・・・。

もちろん日々、黒人の方達が恐怖を感じているレベルには値しませんが、私が体験したアメリカでの怖かった人種差別のお話を書きたいと思います。

バスに乗車できない

それは私が大学2年生の時に起きた話です。

場所は、フロリダ州にあるオカラという街で起きました。

オカラ市内であった音楽コンクールが無事終了し、学校があるボカラトンに帰ろうとしている時でした。(学校までバス・電車を乗り継いで片道約8時間という距離)。機内持ち込み用サイズの小柄のスーツケースと共に滞在先のホテルを朝早く出発し、Ocalaのバス停までタクシーでひとっ飛び。自分が乗る予定のバスが現れ、すぐさま列に並び、乗車まで待ちました。バスドライバーは、背が高く、大柄でテンガロンハットを被ればそのまま西部劇に出てきそうな風貌をした白人男性でした。そして私の番になり・・・

”バスチケットと、身分証明書をご提示ください。”

私は、写真付きの学生証を提示しました。すると、ドライバーはこう言います。

”これは、偽のIDだろ?本物の学生証にはちっとも見えないね。”

私は、もちろん反論します。これが正真正銘の学生証で、写真付きの身分証で今持っているのはこれしかない、と。そして今回オカラに来る前に、自らAmtrak(アメリカでの長距離旅といったらこの会社)のカスタマーセンターに電話をして、学生証だけでも大丈夫だと確認したということも伝えました。

ドライバーが再度カスタマーセンターに電話を入れます。

”今アジア人の子供が、学生証だっていって身分証を提示してきたんだけど、これは許せるのかい?しかもこの学生証、いかにも偽物のようなんだ。クレジットカードのようにも見えるし、これは信用できない。これはもう乗車拒否という形にしてもいいかい?

私は泣きながら、これを逃したら学校に戻ることができないと必死に訴えました。でもドライバーは全く聞く耳を持たない様子。そして一向も離れようとしない私の態度に段々と腹が立ってきたのか、こう怒鳴りました。

”アジア人ってのは、偽物を作るのが得意な人種だろ!偽物は全て中国から来ている、そんなアジア人のいうことなんか、信用ができるわけがないさ。”

バスの発着時刻も予定より30分以上過ぎていました。乗客も、早くバスを出してくれと焦っている様子。一旦バスのドアが閉められ、ドライバーが出発しようとします。私は泣きながら、外からバスのドアをガンガン叩き、やっとドライバーも諦めたのかドアを開けてくれました。

やっとこれで無事に帰れる・・・とホッとしていた矢先に

運転手はバスの車内放送で、

”⚠️緊急連絡⚠️です。このバスに、現在身分証明書を持っていない怪しいアジア人の女の子が乗っているので、皆さん十分にご注意を。何か起こったら、乗客の安全のため直ちにバスを止めさせていただくので、ご理解とご協力をお願いいたします。”

周りからの白い目

完璧私は無実なのに、まるで私が悪者、汚いものであるかのように周りの乗客はこちらを白い目で見てきます。日本人は、海外で信用されているとか関係ありません。黄色人種は全てアジア人と一括り、肌の色で全てを判断されてしまうこともあるのです。

そして、さらに運転手はアムトラック本部に電話をかけ、私にわざと聞こえるように大声で話を続けました。

”このバスを降りたら、次に○○駅でこの怪しいアジア人の女の子が電車に乗り換える予定だ。十分彼女に気をつけるように。次の電車にも乗せるなよ、彼女は偽物のIDを持っているからね。”

地獄のバスでの1時間が終わりました。そして、降りる際に運転手は、

”いつあんたの嘘がバレるかね、せいぜい頑張るように”

と言葉を残し、その場を去っていきました。私は、とにかくこの運転手が憎かった・・・。そして黄色の肌というだけでなんでこんな目に遭わなくちゃいけないのかと、自らの無力さに失望しました。

電車にも乗れない

そして予想通り、乗り換えの駅のチケットカウンターで、早速駅員に止められました。確かに、私の通っていた大学は小規模の私立大学だったので、知らない人がいてもしょうがないのでしょうが、アジア人という理由だけで話も聞こうとしない、そして誰も助けてくれない・・・この時ほど孤独を強く感じたことはありません。

切符係との議論は30分以上続き、流石にもう諦めそうになった頃に・・・突然横から黒人女性が会話に入り込んできました。

”ああ、息子も彼女と同じ大学に通っていたよ。このIDは、息子のと全く同じ形だし本物に決まっているじゃない。いい加減、彼女を信じてあげなさい”

と一言。彼女がそう言った途端、すぐに私をカウンターの先に通してくれました・・・。その後電車のプラットフォームに無事着いたものの、電車が4時間も事故のため遅延になっており、学校に着いた頃には精神的にも体力的にもクタクタでした。そして、私をこの悲惨な状況から救ってくれた素敵な女性のこと、ずっと忘れません。

あとがき

もちろんこれは、私がアメリカで10年以上住んできた中で一番酷かった出来事です。店員の対応が悪い、銀行や水道、アパートの契約がしにくいなどマイナーな差別を受けたことは何度かありますが、アメリカ人全てが白人至上主義者、差別をするような人たちではないです。(読者の方に、アメリカはとにかく怖い国だと誤解をされたくないので・・・)親切な人だって、たーくさんいますし、私もこれまで沢山の人に救われてきました。

今これを書きながら、ちょっと気になってオカラをWikipediaで調べてみたところ、やはり圧倒的にアジア人の割合が少なく、白人優位のコミュニティーということがわかります。

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現在はロサンゼルスに住んでおりますが、こちらカリフォルニア州は、やはり移民も多いため、割りかし過ごしやすいのは確かです。住んでいる地域や州によって、雰囲気もガラリと変わりますし、”アメリカは○○だ!”と、そう簡単に断言できるわけではありません。

ちなみにですが・・・

Microaggression(マイクロアグレッション)

という言葉を、皆さんは聞いたことはありますか?これは、こちらではよく聞く単語なのですが、日本語で簡単にいうと「悪意のない小さな差別的な言動や行動」のことを指します。

例えば、初対面の人に”きみ、英語上手だねー!”と言われること。一見ただの褒め言葉のように聞こえますが、よくよく考えてみると・・・アジア人の私は英語が下手だろう、というイメージを先入観として持たれている=小さな差別となるわけです。

私の場合、友人とゲームをしていて、連勝してばかりいると、”やっぱ、君は日本人だからなあ〜。強すぎ、日本人には勝てるわけがないよ!”と言われることが何度もありました。別に日本人国民全員がゲームが上手だとは限りません、私はたまたま子供の頃からゲームに慣れており、だいぶ長いトレーニングを積んできている(笑)から勝てるだけなのです。だから、その努力や頑張りなどを勝手に人種と結びつけて欲しくないのです。

言葉は、時に人を傷つける刃物になるといいます。差別をしているつもりはなくても、無意識のうちに相手を傷つけているかもしれない。そして人種差別は、深い問題でそう簡単に解決するとは言えませんが、1日でも早く平和な世界が訪れますように。そして、私が受けたような差別体験、このようなことが一人でも多くの人に起こりませんように・・・。

この体験を皆さんと分かち合うことで、ちょっとでも人種差別の問題に関心・興味を持っていただき、理解を深めていただければ・・・と願って書きました。長くなってしまいましたが、最後まで読んでいただき、大変ありがとうございました。

記事を読んでいただき、ありがとうございます。温かいサポートがあった日には、とりあえず嬉しすぎて宇宙までひとっ飛び。そして地球に帰還後、ちょっと贅沢にタピオカミルクティーをご褒美に買いに行きます。いつか皆様に恩返しができますように・・・!