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最高に美しい外観をつくるために、北欧の巨匠が一番大切にしたこと【アルヴァ・アアルト『カレ邸』から考える、くらしのヒント】

こんにちは。
突然ですがサムネイルのイラスト、とてもワクワクしませんか。今回のnoteでご紹介するのは、北欧建築家の巨匠アルヴァ・アアルト設計の『カレ邸』の外観についてです。

ルイカレ邸の外観はアアルトの設計した住宅の中でも一際美しいと思っています。その外観はなぜこれほどまでに美しく感じられるのか。また、アアルトはどのように考えてこの外観を形づくっていったのか。皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
もちろん「綺麗だなぁ」と楽しんでいただくだけでも嬉しいです!

それでは、カレ邸の美しい外観を一緒に見ていきましょう。

こちらのnoteでは、私とイラストレーターの火詩さんで運営しているYouTube『くらしの学校』より、動画の内容を一部抜粋して写真とテキストでご紹介します。
YouTube『くらしの学校』は、世界の名作建築を学びながら、それらの素晴らしい点をみなさんの生活やこれからの家づくりに活かすためのYouTubeチャンネルです。難しい専門用語は極力使わないようにしていますので、どのような方にも楽しんでいただけます。ぜひご覧ください。

動画でご覧になりたい方はこちらからどうぞ。


カレ邸は内外ともにとても美しい住宅ですが、その中でも外観の美しさは群を抜いています。森の中に佇む、真っ白な片流れの屋根。なだらかな段を描く庭園など、どこを切り取ってもため息が出るほど魅力的な表情を見せてくれます。

空を切り取る屋根

外観

世界中の人々を魅了してやまないカレ邸ですが、何が私たちに美しさを感じさせているのでしょうか? 私はその秘密は「周辺の自然との調和」に隠されていると思っています。
さて、ここで私は建築を学ぶ中で出会った ひとつの考えを思い出しました。

「人が誠意と敬意を持って手を加えた自然は、手つかずの自然より美しい場合がある」

これは、カレ邸にぴったりの言葉ではないでしょうか。

人が誠意と敬意を持って手を加えた自然」と「手付かずの自然」について、もう少し身近な例で考えてみましょう。
たとえば「棚田」。アジアを中心に世界各国で見られるこの美しい田園風景は、日本でも多くの人に愛されていますよね。棚田は敷地の傾斜を活かすことで、スムーズに水を流し、稲作などの効率を上げるために生み出された風景です。自然に手を加えつつも、元の土地の個性を損なうことなく活用した 棚田の風景は、結果として多くの人の心を打つものとなりました。

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また、建築分野で有名な例として、『ロンシャンの礼拝堂』を見てみましょう。フランスの小高い丘の頂上にあるこの教会建築は、ル・コルビュジエの代表作とも呼ばれている建物です。(世界遺産)

ロンシャン内

ロンシャン外

なんだか不思議な形をしていますよね。コルビュジエは、この建築を建てる際、丘の景観を活かすために「まるで丘がそのまま隆起したような外観」を考えて、この礼拝堂を生み出したと言われています。
元来の丘の美しさに感銘を抱いたコルビュジエは、この自然に丁寧に手を加えることによって、世界中の人々から愛される風景を生み出したのですね。

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さて、ここでアアルトの『カレ邸』をふたたび見てみましょう。

アプローチからの外観

低い片流れの屋根は、地面に沿うように緩やかに傾斜しています。コルビュジエと同じように、アアルトもまたこの斜面になっている敷地の勾配に合わせてカレ邸の屋根を作ったのでしょう。
そして庭に目をやると、まるで棚田のようななだらかな段組が施されていることに気がつきます。

段組

庭園とプール

あくまで本来の敷地に敬意を示し、最低限のデザインを加えることで 庭園の美しさが際立っていますよね。

人と自然が調和して生み出された景色は、懐かしさであったり、自然への畏敬の念を感じさせます。自然との調和を考えることで、時代を超えて人々に愛され続ける風景を生み出すという考え方は、多くの文化や、時代を代表する巨匠たちに共通するものとして、ぜひ心に留めておきたい考えだと思います。


また、カレ邸を玄関側から見るとシンプルなように感じますが、様々な角度からのぞいてみると、出っ張ったり引っ込んだりと、とても複雑な形状をしていることがわかります。

外観少し上から

段々側からの外観・綺麗

アアルトはこの形状を検討していたと思える、何枚ものスケッチを残しています。見る角度によってそれぞれに異なる美しさを見せる。複雑で奇跡のようなバランスがこの住宅には備わっているのです。


しかし奇跡のようですね、だけではなぜ美しいのかを考えることになりませんので、アアルトがこの住宅に仕込んだデザインの要素を少し分解してみてみましょう。

外観段差詳細

こちらは書斎とリビングに面した、テラスの庇部分です。この庇は、屋根を延長することで生まれています。さて、この庇の書斎の壁に面した箇所に、段差があるのがわかるでしょうか?
実はこの段差があることで、屋根の付け根が細く見え、全体として軽やかな印象を生み出すのに一役買っているんです。また、この段差のデザインは ライムストーンの腰壁の部分で反復されることで、全体としての見た目にまとまりが生まれ、違和感を感じないものとなっています。

反復_8.15.1

また、全体をみると、大きな片流れの屋根によって、必然的に屋根の高い部分のボリュームが大きくなり、重心がそちらに寄ることでバランスが悪くなってしまいます。アアルトはこれを解決するために、この高い屋根の部分の外壁の側面に水平の要素を加えて、全体のバランスを取ることを考えました。

画像15

安定_12.1.1

外観 正対

どうでしょう、このすっとひかれた庇の水平ラインによって建物のデザインとしての安定感が保たれていることがわかるでしょうか。

このように、美しい住宅の外観を生み出すためには、周辺環境とどのように調和させるかをしっかりと考え、建物の全体と細部を行ったり来たりしながら繰り返し整えていくことが大切なんですね。


さて、自然との調和に関してお話をしてきましたが、これは都心部においても応用できる考え方だと思います。普段、家づくりを考える際、どうしても敷地の中だけで物事を考えてしまいがちですが、少し視界を広げて、周囲に何が見えるのか、見渡してみてはいかがでしょうか。
まわりの環境と調和した家づくりは、住みよい街を作り、その家の住人を含め、より多くの人に心地よさを運んでくれます。長くその土地に暮らすことにおいて、この考え方はきっと、より居心地の良い環境づくりのヒントになるはずです。

敷地周りの環境note


さて、今回のnoteはここまでです。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。

動画の方が動きがあってわかりやすい部分もあると思いますので、ぜひ復習も兼ねてYouTubeもご覧いただけると嬉しいです。


掲載している全てのイラストはイラストレーターの火詩さんに描いていただいたものです。
引用させていただきました写真はクリックすると引用先のURLにアクセスする形としております。

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