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【クレオール②】カリブ海に浮かぶフランスの一風変わった言語の魅力に迫る

今回私が訪れたのは、カリブ海に浮かぶ小さな島、マルティニーク。

まだ前回の記事を読んでいない人は、ぜひチェックしてからこちらをお読みください!!!


今回はちょっと言語学っぽい若干堅い話もするが、今「クレオール」ということばを初めて聞いた人にこそ絶対に読んでほしい。
そんな言語があったのか!!とあなたの世界を広げてくれるはず。



【あなたはフランス人?それともマルティニーク人?】

さてさて。

Bonjou !
(クレオールでこんにちは。あの言語に似ていますよね。。ひひひ。。)

マルティニークに着いてから、ビーチで昼寝をしては美味しいカリブ海料理を食べてばかりの私であるが、せっかくこんな僻地島まで一人で来たんだ。聞きたいことを現地の人に聞かないと、このままじゃ帰れないぜ。と思い、インタビューを始めてみることにした。

おいしすぎマルティニークご飯と美しすぎるビーチでずっと昼寝している私


前回の記事で、マルティニークはフランスの領土であるが、マルティニークの人々がどうもフランス人に見えないというお話をした。
ではマルティニークの人々は、自分自身のことを何人と思っているのだろうか。それなら直接聞いてみるかと、マルティニーク人にインタビューをすることにした。

通りすがりのマルティニークおじ達(50-60代)10人に「あなたは自分のことをフランス人だと思っていますか、それともマルティニーク人と思っていますか?」と聞いてみた。(ちな、こんなにセンシティブな質問を突然聞くなど、普通に失礼である。でもどうしても現地の人の話を聞きたかったので、研究熱心な大学院生のフリをして可愛げにお願いした^^)


そして結果は、10人中8人が
「オレはマルティニーク人だ(Je suis martiniquais)」
と答えた。

今回インタビューに協力してくれたマルティニークボーイズ


今回インタビューをしたおじ達は、全員マルティニーク生まれマルティニーク育ち生粋のマルティニークボーイで、うち7人がフランス本土に行ったことがないらしく、これも結果に大きく影響しているであろう。

また、彼ら全員の母語がマルティニークで生まれた言語「クレオール」であり、フランス語があまり得意ではないのも、フランス人としてのアイデンティティがあまりない理由かもしれない。

いや、ナチュラルに登場してしまったが、「クレオール」ってなんだ。そもそも先住民はフランス人によって全員虐殺されたはずなのに、なぜマルティニークでフランス語ではない言語が話されているのだろうか。。。?

【カリブ海に浮かぶ一風変わった言語「クレオール」に迫る!】

「クレオール」とは、実は特定のひとつの言語ではなく、ある共通の特徴を持つ言語の総称のことであり、世界には約20ものクレオールが存在すると言われている。(だから私は敢えてクレオール「語」とは呼ばない)

クレオールとは、ピジンが進化してできた言語であるため、まずピジンについて知る必要がある。ピジンとは、互いの言語を知らない人々の間でコミュニケーションをとるために発達してきた言語のことである。つまり、異なる言語を話す、AさんとBさんがいた時に、どちらかの言語に合わせるのではなく、どちらの言語の要素も取り入れた、新たなCという言語を話すようになる。そしてこの時生まれた、Cがピジンと呼ばれる。


ピジンは、言語の通じない相手に対して自分の目的を達成するために使うものであるため、 発音は話し手の母語の影響を受け、語彙の数も少なく、文法規則も簡略化されることが多い。
両親がピジンを日常語として話す地域ができると、その地域で生まれた子どもたちはピジンを母語として成長することとなり、生活する中で必然的にピジンの語彙は増え、文法も複雑化していく。このようにしてピジンから完全な言語として発達をとげたのが「クレオール」なのだ。そう、「クレオール」は人と人、ことばとことばとの接触により生まれる「出会い」の言語なのである。おっと、なんだかロマンチックではないか。

マルティニークのクレオールは、奴隷として連れてこられたアフリカの人々が話していた言語(言語の特定はできていない)とフランス語が混ざって生まれたことばである。ということもあり、マルティニークのクレオールはフランス語に激似なのである。冒頭で書いた「Bonjou(こんにちは)」がフランス語の「Bonjour」にめちゃ似てるのも、クレオールのお父さんがフランス語だからである。

しかし、このクレオール、悲しいことに話者が減り続けている。マルティニークに住む人でも、若者はフランス本土に限りなく近いフランス語を話し、クレオールは使わない。
今や、マルティニークにおけるクレオールは、50〜60歳以上のおじおばのみが話す「昔の言語」になりつつあるのだ。
今回のインタビューでは過半数の人が「私はマルティニーク人だ」と答えたが、いつかクレオールが無くなり、この島のフランス語話者が100%になったとき、数十年後に同じことを聞いたら、全ての人が「私はフランス人だ」と答えるかもしれない。

言語は出会い、生まれ、時代と共に変化していく。
しかしそれと同時にたくさんの言語は死ぬ。


この言語の「変化」と「喪失」を私たちはどう向き合ってゆけばよいのだろう。
マルティニークでのクレオールとの出会いを通して、そんなことを考えさせられた巴山であった。



次なくなるのは、あなたが話している言語かも。


Mési anchay !



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