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47.さざ波リフレイン(前編)

チームつくばタイトル

2019年7月。そのTwitter上のできごとを、私はフォローしている陸上ファンの人々のざわつきで知った。筑波大学陸上競技部長距離パートに「さざ波」が起きていた。
じつは、できごとそのものには、全く驚かなかった。
けれど、別の理由で、私は世界中の誰よりも驚いていた。

妄想が実体化して、目の前に現れた…

事件が起きる半年以上も前から、ある物語がずっと脳内で無限ループしていた。インディーズバンドがメジャーへの階段をのぼっていく「バンドあるある」ストーリーだ。
タイトルは「さざ波リフレイン」とでも呼ぼう。
(以下、完全フィクションでお届けします)

***

伝説のギタリストに憧れ「ロックミュージシャンになりたい」という夢を抱くアキラ。熱血漢の彼は、音楽好きな友人や同級生などを巻き込み、バンド「リフレイン」を結成する。

最初の目標は、学祭の舞台に立つこと。
必死に練習した甲斐あって、学祭のライブは大成功を収める。メンバーたちのモチベーションは一気に高まった。
次のステップはライブハウスでの公演だ。ライブハウスの支配人は元プロミュージシャン。頼れる相談相手である。
オリジナルの楽曲も作りはじめた。「リフレイン」を応援するファンも増えてくる。少しずつ、夢に近づいている手応えを感じる。

そんな彼らに、大きなチャンスが訪れる。
支配人の紹介で、彼らの演奏を聴いた音楽プロデューサーが、「リフレイン」にメジャーデビューの話を持ちかけたのだ。
他のメンバーは喜ぶが、キーボード担当のシュウジは複雑な気持ちを抱く。
シュウジは、小さい頃からクラシックピアノを習っていた。コンクールで入賞するほどの実力者だ。親友であるアキラの熱意にほだされ、自分が力になれるならと軽い気持ちでメンバーに加わったのだった。
バンド活動は、一人でピアノを弾くのとは違った楽しさがあった。メンバーは気のいい奴ばかりだし、ずっと一緒にバンド活動を続けて行けたらいいなと思っていた。
けれど、アキラの「ロックミュージシャンになりたい」という夢が、まさか現実になるとは…。

彼が知っているクラシックピアノの世界では、プロになれる人はごくひと握りだ。そういう人たちがどれだけ厳しいレッスンを積んでいるか、彼は知っている。人生の全てをつぎ込んでも、それでもプロになれない人もいる。
ロックミュージシャンの世界も同じだろう。シュウジはその先に起こる困難を予測できるだけに、現実と向き合う覚悟が持てない。

皮肉なのは、シュウジは業界人の目から見ても、明らかに「ロックミュージシャンとして非凡な才能」を持っていたことだ。
彼の類まれな音楽センスが、他のメンバーのレベルアップに役立ったことは間違いない。「リフレイン」に対する世間的な評価は、メンバーたちの熱意のみならず、シュウジの才能に依る部分も少なくなかった。

中々前向きになれないシュウジの心を置き去りにして、メジャーデビューの話はどんどん進む。盛り上がる周囲の期待に反比例して、練習に身が入っていないようにみえるシュウジ。その異変にメンバーは気づく。メンバーたちの間に、ぎくしゃくした空気が流れ始める。当然、曲作りもレコーディングも進まない。
そんな様子をずっと見守ってきたライブハウスの支配人は、ある日、彼らに問いかける。

「君たちは、本気でロックミュージシャンになるつもりがあるのかい?」

その言葉が、シュウジの胸の奥の水がめに亀裂を入れてしまう。澱のように溜まっていた感情がほとばしり出て、彼は激しい言葉を叩きつける。
「今までだって、僕ら全員で、一つの夢を追って本気でがんばってきた。なのに、あなたが、あのプロデューサーを連れてきてから歯車が狂ってしまった」と。
支配人は静かに答える。
「そうか、じゃあ、メジャーデビューの話は一旦保留にしようか。みんなでよく話し合ってごらん。」

***

音楽話じゃピンとこない人へ。もっと身近な話をもう一つ。

「甘いものを食べに行きたいね」と友達と意気投合した。
甘いものにこだわりがないなら、問題はない。ケーキ屋でもあんみつ屋でもファミレスでも二人の目的は達成される。幸福だ。
しかし、自分は「どうしてもケーキを食べたい」が、相手は「どうしてもおしるこを食べたい」ときはどうしたらいいだろう?
こんなパターンもある。
「ケーキを食べたい」という意見も一致した。いいねいいね、どこの店に行こうか。
「オレさ、今シーゲルトルテがどうしても食べたい気分だから、これからシーゲルに行こうぜ!」(ちなみに『オレ』は、神奈川県の横浜市から茨城県のつくば市に行こうとしている)
えぇ…ちょっと待って…!?

人生は、選択と決断の連続だ。それは姿形を変えて、生きている限りリフレインする。
あるときはさざ波として、またあるときは、苦痛を伴うほどの荒々しい高波となって。

アドラー心理学では、悩みを解決する出発点は「課題の分離」だという。
その望みは、願いは、夢は、いったい誰が負うべき課題なのか?
自らの課題を正しく認識した時、進む道は拓ける。

さて、でっちあげ感満載の、バンドあるある物語「さざ波リフレイン」。このあと一体どうなる?
そして、あまいものを食べたい二人は、果たしてシーゲルトルテを食べることができるのか?(そっちもかい!)

後編に続く。

【おまけ】
アドラー心理学における「課題の分離」の説明は、こちらのマンガをどうぞ♪(おバカ度が高くて個人的におススメです(笑))


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