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68.僕らの「けしからん」大作戦(3)

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壮行式の後、筑波大学陸上競技部長距離パート(駅伝チーム)は、弘山さん、コーチの木村さん、山田さんらと共に円陣を組んだ。練習前のミーティングだろう。私もそのそばのスタンドに移動して腰かけた。

このときの円陣の並びの不自然さに、弘山さんは気づいていただろうか。
弘山さんの両脇には木村コーチ、山田コーチがいた。その両隣には金丸くんと相馬くん。金丸くんの隣には上迫くん。

駅伝主将の大土手くんが、いない。

円陣がおおむね出来上がったころ、用具倉庫のほうから大土手くんがやってきた。手提げ袋を後ろ手に持っている。弘山さんから一番遠い位置に加わり、円陣の外側にそっと袋を置いた。もちろん、弘山さんは気づいていない。

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(関係者様の許可を得て掲載しています)

さて、作戦はいつ決行されるのか。期待しながら見守る。

弘山さんが話し始めた。箱根駅伝予選会まであと10日余り。いつもどおり冷静に話してはいるけれど、弘山さんの口調には緊張がみなぎっている。
私も、弘山さんを食い入るように見つめ、耳をそばだてた。

と、突然、円陣の手前にいた「春日井」の文字が揺れた。
その場に崩れ落ちる。

い、伊藤くん!?

「春日井」の文字を背負ったジャージ。伊藤直哉くん(当時3年)だ。
愛知県立春日井高校出身の彼は、理工学群なのになぜかジャージ通学しているという、体専(体育専門学群)よりも体専らしい学生さんである(当時の筑波大学陸上競技部HPの部員紹介より)。
膝をついて苦しそうに前かがみになっている。

弘山さんは話を中断し、『おい、大丈夫か?』という表情で伊藤くんのほうを向いた。伊藤くんは四つん這いのままだ。
伊藤くん、どうしたの?具合悪いの!?
私のいる場所からは階段の陰になっていて、彼の顔が見えない。思わず腰が浮いて、前のめりになった。弘山さんも足を踏み出しかけた。

そのとき、手拍子とともに歌が聞こえてきた。

Happy Birthday to You,
Happy Birthday to You,
Happy Birthday dear 弘山さん
Happy Birthday to You.

大合唱の中、大土手くんが弘山さんの前に進み出た。
「弘山さん、お誕生日おめでとうございます!」
手にした手提げ袋を弘山さんに差し出した。
破顔一笑。
張り詰めた空気が一気になごみ、みんなの笑顔が弾けた。
伊藤くんのアクションは、弘山さんの注意を逸らすための演技だったのだ。
私が大土手くんに渡した手提げ袋には、keikaさんが描いてくださった、弘山さんの肖像画が入っていた。

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もちろん、ご本人には内緒で制作した「けしからん」作品である。

そのほかに、小さい箱と大きい箱も手渡された。学生さんたちからのプレゼントだ(OAKLEYのサングラスと泡盛だったようです。弘山さん、お酒好きなのね(笑))。

弘山さんの誕生日は3日前の10月12日だった。それに合わせてサプライズを企てたのである。

翌日、弘山さんのツイートで、私は伊藤くん一世一代の大芝居を知ることになる。

えぇ!?伊藤直哉くん、円陣組む前からあの瞬間まで、ずっとトマトジュース、口の中に含んでたの(笑)!?

ということで、このサプライズ企画決行までのウラ話は、次回に持ち越し。
けしからん度合いMAXな、お誕生日大作戦のメイキングストーリー、お楽しみに。



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