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材料


 

目眩…

見慣れない景色だ…

体が動かない…

視点が動かない…

声が出ない…

苦しいな…

ここは何処だ。時刻も日にちも検討もがつかない。


昨夜は確か
あの子に会ったのだ

名前  なんだっけ?
記憶が薄れてゆく…




気がつくと夜になっていた。

ざく ざく と足音が聞こえる。
あの子が視界に入った。
彼女は優しく微笑んでくれた。

そして 僕の足元に何かを埋めた。



次の日も彼女はやってきた。
微笑みながら また僕の下に何かを埋めた。 

次の日も
その次の日も…



ある日 声が聞こえた。

『タスケテ』

『クルシイ   タスケテ…』
 

『サクラコ…』




!!
桜子!
そうだ、彼女の名前は桜子。



彼女は趣味でハーブティーの調合をしていて
試飲をしてほしいとお願いされたのだ。




僕は喜んで協力した。

彼女の事が好きだったから…


趣味だと言っていたが彼女は立派な工房を持っていて僕はそこへ招待された。



『今年も桜が綺麗ですね』
優しい笑顔でハーブティーを出してくれた。 
桜の花が浮かんでいて良い香りだ。


『これを入れると色が変化するんですよ』

楽しそうに言いながら
彼女がエキスを入れるとティーカップの中は
鮮やかなブルーになった。


『美味しいね』
僕はそう言って飲み干した。




目眩がする…

見慣れない景色だ…

体が動かない…

視点が動かない…

声が出ない…

苦しいな…





あぁ、、また声が聞こえる。
多くの声…『タスケテ』『サクラコ…』『クルシイ…』
聞こえると言うより感覚的に入ってくる感じだ。



彼女は毎日やって来る。

そして僕の足元に何かを埋めている。

そして 微笑みながらこう言ったのだ



『綺麗な花を咲かせる木になってね』

『美味しい実を付ける木になってよね』
と。



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