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繋がるための種を蒔きたい

「私たちはどんなに頑張っても
 ご家族の代わりになることは出来ません。
 ですからどうか、お暇なときは
 面会に来てください」


これはかつて
特養のサービス提供責任者だった私が
新規入所の方のご家族との契約の際に
必ずお話していたことです。


今ならご家族様が
とても忙しかったと想像できるので
こんなことを申し上げて
正解だったか分かりません。


だけど、
職員が、100%尽力しても
悔しいかな、家族のようには
心の支えになれない。

これは真実です。


圧力をかけたつもりでは
無かったのですが
結果、
面会に来て下さる
ご家族はたくさんいらっしゃいました。


40代で認知症を発症され
重度の糖尿病をお持ちだった女性は
他施設から敬遠され
この施設に回されて来ました。

旦那様は毎日、
台風の日も雪の日も
面会に来られては、
奥さまをリクライニング式の
車椅子に乗せて、
施設の内外をお散歩されていました。

当然スタッフとも
仲良くなり、
お元気だった頃の
奥さまの思い出話を
たくさんして下さいました。


大人しかった認知症の女性は
同じく寡黙な息子さんが
毎日、夕食時に来られて
食事介助して下さいました。


お二人は決して
ペラペラと話す訳ではなく
ただ静かに隣に座って
お食事時間を共にされているのです。


それが、
とても落ち着いた空気感でした。


寝たきりで最重度の男性は
奥さまがとても快活で
お話好きでした。


お昼時、その奥さまは
施設の給食を頼まれて


※イレギュラーですが特別に。

我々職員と共に
昼食を召し上がることも
少なくなかったので、
将来のご心配やご相談を
伺える機会にもなりました。


分裂病の70代の女性は
90代のお母様が
来られていました。


滅多にお話することのない
この女性は
お母様がいらっしゃるとき
本当に数ヶ月に一度くらい

「お母さん、お母さん」と
何度も仰っていました。


ニコニコと笑顔の素敵な
女性のお孫さんは
いつも赤ちゃんを
連れてきてくれて、
その子は特養中のアイドルでした。


ご家族がいらっしゃることは
我々にとって救いでした。


ご入居者様はとても楽しそうで、
我々が嫉妬しても
地団駄踏んでも
代わりになれないことを
思い知らされましたが、

嬉しそうなご入居者様のお顔を見て
私たちも笑顔になりました。



そうね。


人と人を繋げる仕事は
ソーシャルワーカーの
基本的かつ重要な役割ですが、


留学生に対しても同じです。


教師は
教師ひとりの
または教師集団の力のみで
留学生を完全に救うことは出来ない。


私たちは留学生を
頻繁に家族と繋げることは
出来ないけれど、

親身に留学生を
救ってくれる
同じ仲間である別の留学生に
繋げることは出来ます。




勤務先の日本語学校では
何かしらの
学習障害だと思われる
留学生が時折います。



私が今教えている
2年生にも1人。



見た目はもちろん
ごく普通の若者です。
嫌な言い方をすると
馬鹿っぽく見える訳でもない。


だけど、文字がどうしても
覚えられません。


母国語でない
英語はペラペラ話すので、
識字障害かな。


担当教師の話し合いで
クラスを異動してもらっても
ひらがなが覚えられなかったそうです。


この場合は
あくまでこの学校においては、
ガミガミと無理やりやらせるのではなく
できる範囲で
学んでもらいます。



学校に来るだけで苦痛だと思います。
分からない中にいるなんて
耐えられない。
自分だったらそうです。



でも彼は
他のクラスメイトと仲良くして
来るたびに
一人ひとりとハイタッチして、
和やかに愛されて過ごしているので
見ていて安心です。



今年の4月開講の1年生にも
1人います。



髪がフワフワで
ワンコ系19歳の
モンゴル人の男の子。



最初は出来る方の学生だと
思っていました。
絵カードを見せると
積極的に発言してね、
挙手して黒板に出て
書いてくれました。


単語は詳しいんです。とても。



それが
どうしても文になると
理解できません。


ニコニコしていた彼が
次第に笑わなくなり、
あるときお通夜みたいな
泣きそうな顔をしていたので、

すぐさま担任と
専任の担当教師に報告し、
下のクラスに異動できないか
相談したのですが、

定員オーバーで
無理でした。



そのクラスに入るたびに
気にかけていたのですが、
しばらく彼はかなり暗い状態が
続きました。



ひとりでポツンとしていて、
話しかけても
本当に簡単な会話さえ全く
分からないようです。




夏休み明け。


久しぶりに会ったら
笑顔であいさつしてくれました。


あれ?
元気出たかな?


彼に書いてもらう書類を
持って行って
スマホ翻訳で説明したら
やっぱり笑って
「分かりました」と言います。


雰囲気が前に
戻ったみたい。


よく見ていたら
後ろにネパール人の男の子が
いるのですが、
彼と仲良しに
なったようです。


ネパール人は大抵
英語が上手ですが、
この19歳くんはモンゴル人のこともあり
全く出来ません。


だから2人で
コミュニケーションが取れない、と
思っていたのですが、

休み時間に見ていたらね、
無言で腕相撲を
しているんです。


お互いに声を発しないで、
楽しそうに。


それで、
私が行って
「レディ?GO!」と
掛け声をかけて、

ウェーイ!
頑張って!
すごい!
強いですね!


なんて簡単な声かけを
したところ、
2人で笑って
楽しそうでした。


次の休憩時間では
2人でスマホの動画を
見ていました。


その時も、
無言でコミュニケーション
しているんです。

ジェスチャーだけを使って
無声映画みたいに
一言も発せずに。


だけど、
2人はもう仲良しなんだ、って
分かりました。


それで、私
思ったんです。


ああ、会話をしなくても
人って友だちになれるんだ、って。


何かとても貴重な
美しいものを見させてもらった
瞬間でした。


19歳の彼は
やっぱり授業に
ついていけないようですが、

それでも出来るところをやったので
私が褒めたら
嬉しそうにしていました。


学校に
友だちがいるって
こんなに違うんだ。


楽しく学校に来られれば
能力だって伸びやすい。


この2人は
私が繋げた訳ではないけれど、

私たちは
留学生同士を繋げる機会を
作る役割があると思います。




私は会話練習では
いつもくじを引かせて
ペアを作らせます。


好きにペアを組んでもらうと
どうしても同じ学生としか
交流しなくなるので。



その分、
問題が起きないか
様子を見ます。


合う学生
合わない学生と
いろいろあっても、

地味なようでいて
毎回ペアをクジで
決めていたクラスでは
クラス全体が仲良くなる
気がします。



繋がるようきっかけを作りたい。




独りよがりかも
しれないけれど、
繋がるための種を蒔きたい。


私ひとりが
どうにか出来る、なんて
過信しないで
学生の、他の学生への良い影響力が
最大限に出せるように。


楽しく勉強して
楽しく日本で過ごせるように。

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