母の心と女性の快感×20倍
生まれ変わるとしたら、男女どちらがいいでしょう?
私は子どものころ、「生まれ変わるなら絶対に男!」と思っていました。昭和の頃、家庭を持ちながら働く女性は例外的。なのに物心ついたときにはもう、「演劇みたいな仕事がしたい」とはっきり思っていたので……。
小学校に入ったときに、妹が生まれました。家の中には乾いてないオムツの匂いが立ちこめ、宿題がわからないのに産後の母は相手にしてくれず、退屈なのに大変な子守もよくさせられました。なので子どもは嫌いでしたが、なぜだか女性に母になる以外の選択肢があるとは思えず……。
「好きなだけ仕事ができて、家庭では妻が全てをやってくれる」王様のような立場の男性が、羨ましくてたまりませんでした。
その考えが変わったのは、娘が嫁いでかなり経つほんの最近のこと。だから、もしも今「次は男」「次も女」と思っている女性も、何十年かの間には気が変わる可能性があります。
男性の場合はわかりませんが、「女はいいよな」と思ったことぐらいなら、誰にでもあるのでは? 私が最初にそれを聞いたのは、大学のゼミの先輩からです。
4年生たちの就職が決まった直後の時期で、ゼミの3、4年のメンバーで移動中の電車の中でした。この国際経済ゼミの先輩は全員男性。揃って一流企業に内定したので、ゼミの先生はホクホクでした。
話題は将来についてで、先輩の一人がこう言いました。「女の人は、好きな男と結婚できればそれで本望でしょう」。
卒業後の仕事に意欲を燃やしていた私は、「えっ?」と反発を覚えました。なんだか「女性差別」に聞こえて……。「総合職」と呼ばれる男性と同等条件の雇用も、まだ始まってない時分のことです。
ただ、このゼミにはそれまで女性がいなかったためか、スキー合宿などでは「女の人は座っててください!」。男性がお茶出しから食事配膳まで、何でもやってくれる環境。先生♂からして、”フェミニスト”を公言していたのです。
発言した先輩は、メタルフレームの眼鏡が好印象な色白実直タイプ。女性蔑視があるようには見えず、私は反論を控えました。
今では、メタルフレーム先輩に完全同意です。ただし、「好きな男と結婚できれば」の部分が問題ですが……。
私がその当時結婚を切望していた彼とは、やはり結婚できず。その後も、誰からもプロポーズされていません。(結婚はしましたが「いつの間にか婚」)「本望」がそもそもないので、「それで本望」に反論するまでもありませんでした。
そんな結婚・子育て中の平成のひところ、「女性が得る性的快感は男性の20倍」と話題になったことが……。20倍が本当かは知りませんが、どうもそれ以上の気がします。
快感20倍は、生物学的には「直立歩行になった人間のメスは難産で、未熟に生まれる子どもの育児も大仕事であるために設定されたインセンティブ」と言われますね。
このインセンティブを反故にしないのは、快感20倍をくれる男性のみ。なのに、私の夫のように性的魅力の微妙な男性は少なくありません。結婚がデフォルトだった終身雇用の時代には、おそらく多くの夫が生物学的には詐欺。「納得いく相手でなければ結婚しない」という昨今の未婚女性は大正解、と拍手したくなります。
とはいえ、キャリアをたくさん犠牲にして育て上げた私の娘が、何も犠牲にしてない彼女たちの年金をこれから払います。もちろん、受け入れがたい話。
彼女らを気楽だとか無責任だとか、批判するのは簡単。でもその権利は、私にはありません。子どもを望んでなかったにしろ、イヤならやめればよかったんですから……。
じゃあ、誰なら責任を問う権利があるのか? それはたぶん、子どもを育てるに足る甲斐性と魅力を持って、彼女らにプロポーズして断られた男性。そんな男性がいれば、ですが……。
それに近い人だったら、いるらしいんですね。例えば、結婚アドバイザーさんのこちらの例。年収1200万、商社勤務34歳の男性。
この女性が断った理由は、本当に表向きの「貯金額の少なさ」だったのでしょうか? 実は好みのタイプでなかったからでは、と思うのは私だけ? 私だったら、たとえ貯金額ゼロでも、好きな人とは結婚したいですから……。
快感20倍の誘惑が自然界のトリックとして存在しても、結婚する気のない女性は騙せないらしいです。
じゃあ、20倍の快感は無用なのでしょうか? いえ、そんなことはありません。絶対に。
結婚ではそれにあやかれないとしても、それがある前提で作られたロマンティックなお話にときめくことはできるから……。
最後に、「生まれ変わるなら次も女」と心変わりした理由をお話ししましょう。娘が結婚式で読んでくれた手紙には「生まれ変わってもまたママの子どもに生まれたい」とありました。
当時の私は「生まれ変わったら、2度と子どもは産まない」と決めていたので、娘の優しい気持ちが悲しかったです。ところが、それから始まったワーキング・ママとしての娘の結婚生活は、若い頃の私が描いていた理想に極めて近いものでした。
次々と夢を叶えて輝きを増していく娘を見ていたら、いつしか「生まれ変わってもこの子の母になりたい」と願っていたのです。そうです、女でなければ母にはなれませんからね。
まだまだ女性が生きにくい日本ですが、みんなの長年の尽力でこんなに時代は変わりました。今現在のみんなの生き様が、更に進化した未来を創っていきます。男女どちらに生まれ変わっても、どうかトータルで「快感20倍」の世の中でありますよう……。