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韓国ドラマ『mine』から見る価値観の変化-「女の敵は女」はもう古い

かつての韓国ドラマといえば、財閥もの、記憶喪失、不治の病などなど、「これでもか!」と言いたくなるようなわかりやすい障害や葛藤が盛り込まれた、劇的展開がお家芸だった。

しかし韓国ドラマは進化した。
劇的な展開の物語は多数あれど、ありきたりな障害や葛藤が安易に使われること滅多になくなった。素晴らしきクオリティの作品が数多く配信され、韓国ドラマは、今やグローバルコンテンツとして確固たる地位を築いてる。


のはずなのだが、最近完走した「mine」はかつての韓国ドラマを彷彿とさせる内容だった。久々に記憶喪失(仮)設定が登場し、「でた!」と、思わず声が出た。
とはいえ、物語としてはメッセージ性があり、結末も昔のドラマ的ではない。
時代のムードみたいなものを感じさせる作品で、ある意味、とても新鮮だった。


1.「女の敵は女」というシチュエーションの終焉

前半はまさに、財閥家の愛憎てんこ盛り。「おやおや」と思ったが、主要登場人物のひとり、財閥長男嫁ソヒョンを演じたキム・ソヒョンが見たくてエピソードを見すすめた。

さて、このドラマにおいてドロドロな人間関係が描かれるのは、ソヒョンが属する長男家ではなく、次男家の方。

その、次男ハン・ジヨンは婚外子であり一家における立場は複雑。また、彼には妻ヒスとの結婚前授かった、これまた婚外子の息子ハジュンがいる。すなわち、ヒスはハジュンの継母となるが、彼女はハジュンに深い愛情を注いでいた。

そんな次男家に、正体を隠したハジュンの実母がハジュンの家庭教師として現れる。もう、絶対ありえんだろ&モメるやろ、な設定に少々引いたのは事実。

予想通り、ヒスと、「ヤバイ女」な雰囲気を纏った家庭教師(ヘジン)の、えぐいバトルが繰り広げられ、ついにヒスは、家庭教師がハジュンの実母であること、夫ジヨンが嘘をついていたことを知る。で、妊娠中だったヒスはショックのあまり子供を流産。おまけに優しい夫ジヨンは裏の顔を持っていて。。
と、もうドロドロの極み。

しかし、そういう劇的愛憎ドラマな展開は前半で一区切り。
というのも、それらがこの作品のメインテーマではないからだ。

かつての韓国ドラマなら、「ヒスがへジンに勝ち、夫との関係修復&ハジュンと親子の絆が強まる」という流れだろうか。

しかし、このドロドロ劇の結末は全く別のものだった。

まず、物語における悪役はへジンではなく、ヒスの夫ジヨンが一身に引き受けることになる。

ヒョウォングループ会長就任目前のジヨンは、権力を欲しいままに操る悪の象徴に変貌し、そんな彼を倒すべく、女たち(ヒスとへジン、そしてソヒョンも)が結託してジヨンに立ち向かうという展開なのだ。


そもそも、このトラブルの元凶は男の身勝手によるものだし(ジヨンはへジンと子供を作っておきながら、子供だけを引き取りヘジンをあっさりと捨てた)、そうい意味では正しい矛先の向け方ではある。

とはいえ、多くのドラマでは、夫の浮気が発覚した場合、妻が相手の女を憎むというのが一般的な展開。でも、冷静に考えれば、悪いのは夫であり女同士で戦うのはある意味的外れだと思う(そりゃ、夫を奪った女に対し嫉妬はするかもだけど、「私を裏切ったのは誰?」を考えれば怒りをぶつけるべき相手は誰だが明白なはず)。

ともあれ、愛息子ハジュンを守るため、ヒスはへジンと手を結ぶ。「ハジュンを傷つけない」という一点においては利害の一致している母親同士。紆余曲折ありつつもお互いの立場を尊重しつつ、手を組むという流れ。でもこれは、女だからこそ分かり合える感情、つまりは子供を巡るお互いの心情に対する共感がベースにあったからこそ成り立つ関係。

彼女らは子供の取り合いに終始することを止め、ドロドロの状況を招いた元凶は誰かを見極めた。またヒスとヘジンには「子供は誰かの所有物ではない」ことを理解する賢明さがあり、だからこそ、二人の母は、共存と協力という選択をすることができた。

この展開を見るにつけ、女同士の敵対という既定路線は既に古いのだと感じる。

そしてその背景にあるのは女性の自立だ。あるいは古い価値観からの解放。
とすれば、夫の地位に依存せず、自分の意思と力で生きていく彼女たちにとって必要なものは何か?
少なくとも、女同士で足を引っ張りあう事ではないのは間違いない。


そんな彼女たちと対照的に描かれているのが、ヒスやソヒョンの義母、ハン家の大奥様であるヤン・スンヘ。
財閥出身の彼女は財産はある。が、それは彼女の功績によって得たものではない。要は実家や夫の地位に依存して生きてきた。彼女が生きてきた時代の価値観を鑑みればそれは仕方がないのかもしれない。が、彼女は夫の愛人への憎悪という呪縛から解き放たれることなく余生を送っている。「女の敵は女」は、ここではまだひっそりと生き長らえている。


何はともあれ、「女の敵は女」とうシチュエーションはもう見飽きたというのが視聴者の感覚なのだと思う。だからこそのこの結末。実際のところ、シスターフッドを描く作品が多いことも最近の傾向だ。
映画やドラマは社会や時代の価値観を反映するものだけど、そういう意味で、流れは大きく変わったと感じる。


2.ゾウが門を出る方法

個人的に一番印象に残っているのはエピソード8「ゾウが門を出る方法」だ。
ソヒョンが購入した「狭い門に大きな体を挟まれた、涙を流すゾウ」の絵画がキーになる。

このエピソードではハン家を仕切る長男の嫁、ソヒョンの気持ちの揺れが描かれる。
性的マイノリティーである彼女は、本当の自分をひた隠し、財閥家長男の嫁、そしてヒョウォングループ系列会社の代表として生きている。

学生の頃から愛し続けている女性、スジを受け入れることもできず、かといって彼女を忘れることもできない。財閥の一員として生きる彼女には自分の思い通りに生きることは許されない。

そう、彼女は壁の内側から外に出ることができない「ゾウ」の象徴なのだ。


ある時、ソヒョンは「ゾウはどうすれば狭い門を出られるのか」と作者に尋ねる。

すると、彼はこう答える。

最初から壁はありません

ゾウが閉じ込められていると思い込んでただけ


そうなのだ。
今いる場所から抜け出すことが難しいと感じるのは、そこに壁があると思い込んでいるから。そして、その思い込み、つまりは壁を作っているのは他ならない自分自身。

ここで言う「壁」とは、簡単に乗り越えられない宿命、すなわち財閥という自由のない特殊な世界で生きることの象徴であると共に、恐れているものから自分を守る心理的盾でもある。

ちなみにソヒョンが恐れているものとは世間の偏見。彼女は壁を作ることで自由を諦め、その一方で世間の偏見に晒されぬよう、自分を守り生きてきたのだ。

でも、偏見とは結局のところ他者の価値観でしかない。そして他者の価値観に振り回されて生きるのは他者の人生を生きるのと同じこと。自己を肯定して生きなければ、それは自分の人生を生きているとは言えない。

ではどうするか?

壁を乗り越える、つまりは本当は壁など最初から存在しなかったことを認めるのは簡単ではないけれど、「自分自身を愛すること」そして「自分らしく生きること」にその鍵がある。
そしてそれこそが、この物語が伝えたいメッセージなのだ。


3.最後に

「SKYキャッスル」で初見だったキム・ソヒョン目当てで観たこのドラマ。
彼女の凛とした美しさは「カッコイイ」という言葉がぴったりで、ある意味、宝塚の男役的な魅力なんだと思う。

そしてヒスを演じたイ・ボヨンも見ていて飽きない美しさ。
ずっと「誰かに似ている。。」と思いながら鑑賞していたのだけど、吉田羊?いや違う、と考え続けた結果、「スタートアップ夢の扉」でハンチーム長を演じたキム・ソノだ!と気づいた。(誰の同意も得られないかもだけど…)

また、前半悪役、後半イイ人のへジンを演じたオク・ジャヨンは、前半と後半で見事に表情を使い分けていて、感情の変化を上手く表現していたのが印象的。

兎にも角にも、主演の女たちは演技が素晴らしいだけでなく、揃いに揃ってスタイルが良い。
モデルのような彼女たちが身につける衣装を見るだけでも結構楽しめた。
一方、今時見かけないピンヒールを履いて歩く姿を見るにつけ、こっちまで足が痛くなるような気もしたが、まあ、財閥モノドラマなので、そういうものなんだろうということで。


そして、個人的にツボだったのは、アルコール依存症のダメダメ財閥長男を演じたパク・ヒョクグォン。多くのドラマで名脇役として出演している彼は、つい最近では「ロースクール」で悪い検事、「よく奢ってくれるお姉さん」「プロデューサー」ではダメ上司を演じている。
そんな彼を「財閥長男」の役柄で見ることになるとは。かなり新鮮というか、ちょっとした衝撃だった。「ロースクール」後に「mine」を見始めたので特にそう感じるのかも。

同じくツボだったのは長男家の息子役のVIXX エン。
「知ってるワイフ」での気が利かない若手銀行員役とは打って変わって、今回はシリアスな役どころ。あまりのギャップに「どっかのドラマで見たことあるけど誰だっけ?」という感じで、初めは彼だと気づかなかった。
個人的には彼にはシリアスよりも、「知ってるワイフ」で見せたおちゃらけキャラの方がしっくりくる。



何はともあれ、個性豊かなキャスト陣を堪能。そして韓国ドラマ「mine」から垣間見える「価値観の変化」に思いを馳せたのであった。

たまにはドロドロ系もイイかも。

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