「組織文化のリ・デザイン」に、デザイナーはどのように寄与できるのか?
はじめに
テクノロジーの進展やビジネス環境などの変化は新型コロナ等によって拍車がかかり、これまで成長の方程式からの脱却に多くの企業が取り組んでいます。中でも必要性が高まっているのが「組織文化(カルチャー)の再創造」であり、日本において急速に広がりつつある人的資本経営のガイドライン(ISO30414)にも項目として立てられたことで、更に関心が高まっています。
一方、個人の創造性についての研究に比べて組織文化の創造に関するそれは、まだ多くの事例がありません。
こうした問題意識から、ウィルソン・ラーニング・ワールドワイド株式会社と武蔵野美術大学ソーシャルクリエイティブ研究所の共同研究が行われ、筆者も研究パートナーとして参画しました。この研究は2つのフェーズで進められましたが、第2フェーズでは、レベルフォーデザインの福原あいさんに研究メンバーとしてご参加いただき、デザイナーの視点からの知見を提供していただきました。
本連載では、まず研究のプロセスとアウトプットをご紹介し、第2回では本研究のプロジェクトリーダーを務めたウィルソン・ラーニングの小原大樹さん、福原さんと筆者による対談で「組織デザインにおけるデザイン(デザイナー)の価値」について明らかにしていきます。
研究のプロセス
本研究は2つのフェーズ(段階)で行われましたが、それは当初から計画されたものではありませんでした。「創造的な組織文化と行動様式」を明らかにすると共に、それを生み出すソリューションを開発するという“大きな妄想”に基づき、それを実現するための“小さな実験”の積み重ねが結果的にこのプロセスになったと言えます。
第一段階(Phase1)としての調査・分析は、「果たして非クリエイティブ領域の人たちにクリエイティブな思考や行動様式が生まれるのか」という問いから始まりました。この問いに基づき、武蔵野美術大学大学院で学んだ非デザイン領域の社会人へのインタビューを実施。そこで得たヒントに基づき、より深めるために創造的と思われる企業や組織に所属する方々へのインタビューを実施し、UXリサーチで用いられている分析(KA法)を行った後、概念モデルや価値観マップを開発しました。
そして、このモデルをソリューションとして落とし込んだ簡易ワークショップを実施しました。しかし、いきなりソリューション化することは性急にすぎるとの結論に達すると共に、Phase1のプロセスを自組織で実験する必要性を感じPhase2へと移行しました。
※KA法とは:顧客の声や行動・体験などの「質的データ」を分析・モデリングし、本質的なニーズやユーザーのインサイトを明らかにする手法
第2段階(Phase2)では、武蔵野美術大学の授業において実践すると共に、ウィルソン・ラーニングの社内チームを対象にPhase1のプロセスをたどりました。ジョブ型や人的資本経営という事象に表れているように、働く現場やキャリア形成に大きなシフトチェンジが生まれており、組織の在り方も個人のキャリア開発の点でも、より創造的なものが求められて行くことは間違いありません。しかしそれを生み出すプロセスは、必ずしも心地よいものではなく、モヤモヤも生まれます。
そのプロセスを提供側が実感してこそ、サービスにも説得力が生まれます。このフェーズの根底には、こうした問題意識がありました。
本研究が開始した2021年7月に東京オリンピックが開催され、研究が行われた1年半は日本も世界も正に未曽有の変化に直面しました。本研究は、そのプロセス自体が変化に適応しながら行って来た「実験」そのものでもあります。
研究から生まれた創造的組織の実践に向けたモデル
従来のKA法分析では「個人」の価値観のみを深く掘り下げて行くのですが、本研究では導きだす対象を「個人」と「組織」、価値観を「ありたい姿」と「本音・心の声」へ拡張した形で分析することに挑戦。出来上がったモデルを「人と組織のダブルリフレーミング・モデル」と名付けました。
本モデルによって、いきなりありたい理想的な姿を描く前に、なかなか言語化されにくい個人と組織の本音を見える化することで、それを効果的にリフレーミングすることが可能になりました。
研究の総括と課題
創造的な活動をしている組織での実践を調査することで、「実験的」「情熱駆動」「面白がる」「対話」など組織文化を形作る行動の要素やそれに至る組織での実践を明らかにすることができました。
また、組織が変わっていくために理想だけでなく当たり前に存在して見えにくい現状に対しての気づきが大事なこともわかってきました。
組織内での実践を「まずやってみる」ことで、組織の中の変化の兆しを見ることはできましたが、その兆しが組織文化という日常行動にまで根付いてくるかはこれから継続的に見ていく必要があり、そこからの学びも多いと考えています。
そして、研究の当初から課題意識として存在した、組織開発と人材開発の両面からのアプローチという意味では、道半ばになっています。今後は、両側面を意識しながら「デザイン」の力を活かして、多くの「創造的な組織文化」に関心のある皆さんと一緒に研究と実践を行っていきたいと思います。
▼ 研究報告冊子は下記からダウンロードすることができます。
ぜひご覧ください!
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