見出し画像

ワンダーランドな介護施設について思うこと。

介護業界の仲間内では、ひそかに「動物園」という隠語が使われることがある。
そう。
高齢者施設で生活している、ワンダーランドな高齢者たちの日々の珍行動を、仕事の仲間うちでは「動物園」と表現して話をすることがあるのだ。

久しぶりに施設の夜勤バイトをしてみたら、まさに「ワンダーランド」な施設だったので、今日はワンダーランド施設を通しての気づきをお話しようと思う。

ワンダーランドの住人たち

夜勤帯のフロア見守りをする上での申し送りで、「この方は裸で歩いたり、フロアでうんちしたりするんで気をつけてください。」とあった。
ほー、結構すごいぞ。今日はたのしい夜になりそうだ。

それにしても、自室内ならまだしも、共有部分のフロアでうんちをしてしまうとは!夜間の徘徊行動はよく目にするけれど、食堂で裸になってうんちをしている、というのは結構レアケースと思う。

私は、夜間帯の人手不足の中、それだけは避けたいと思い、その女性は要注意でみていた。
が、巡視で部屋に伺うと、布団の中ですべて服を脱ぎ捨てて裸で寝ていたり、朝の忙しいモーニングケアの時間帯に、気づくと一人でお部屋のトイレへ行っていて、トイレ内の床におしっこをしていた!

でも、なんだろう。行動がかわいくて、ついつい笑ってしまう。
朝、起床の様子をうかがいに私がお部屋に入ると、ちょうどトイレから出てくるタイミングが重なり、その女性は、静かにトイレの引き戸のドアを閉めてしまった。
数秒置いてもう一度、私が部屋のドアを開けると、トイレから出てこようとしたところだったのに、にっこり笑っておじぎをしながらまた静かにドアを閉めてしまった。
繰り返すこと、3回。
「お、おもしろい」
もっと繰り返したい衝動にかられたが、忙しい時間帯にこんなことをしている場合ではない!

常勤の男性は、汗だくで働いていて、
「〇〇さん(私のこと)、ぼくだけもう真夏の熱帯雨林にいるみたいにあせびっしょりです!」とさわやかに笑いながら、1階から3階まで行ったりきたりして、
バタバタしているのに!

なんとかトイレ内に侵入すると、
「あー!やられた!」
トイレの床におしっこをしてしまっていた!
まあ、食堂でうんちをされることを思えば、これくらいはへでもない。

この方以外にも、夜中にもお部屋で大音量で音楽を聴いている人や、トイレで眠ってしまう人、一晩中同じ言葉を繰り返していて一睡もしていない人。
いろんな人がいて、なかなかにおもしろい夜だった。

迷惑行動?動物園?どう解釈するかはあなた次第

動物園、などという表現は、本当は慎まなければならないだろうし、もちろん本人や家族の前で、そのような表現を使うことはないし、使っているともバレてはいけない。
そんなマナーや常識的なこと、コンプライアンスは百も承知で、それでも私はこういった視点は必要ではないかと思っている。

このような施設の住人の珍行動について、「動物園」という表現を使えるケアワーカーさんたちは、むしろ、愛情を持って接していることが分かったからだ。

お互いにダブルワークをしていて、同じ現場でたまに会う介護士さんがいる。
その介護士さんも、たまに「動物園」状態の施設のバイトに行くという。
そこでの、話がいつもおもしろくて私は笑ってしまう。
でも、その介護士さんは馬鹿にしたり、グチをこぼすというような意味合いではなく、「おもしろい」=「かわいい」と思ってその人々の話をしていることが伝わってきて、ほのぼのする。

極楽とんぼ山本、布団たたき騒音おばさんの禁断のネタ

昔、めちゃイケというお笑い番組で、当時ワイドショーで取り扱われていた、奈良県騒音傷害事件、近所迷惑な騒音をたてたとして、実刑判決を受けた布団たたきおばさんをコントのネタにしたことがあり、禁断のコントとされた。
今これをやったら、批判殺到すると思うし、テレビ番組では放送できないだろう。

でも、なんだろう、迷惑行動をとる人、それによって被害をこうむる人にとっては本当に迷惑行動でしかないけれど、お笑いの視点からみれば、そういう人は「お、おもしろい」そんなふうにもとれるものだと思う。

介護現場にもとめられるお笑いの視点

私はいつも思うのだけれど、お笑いをやる人にとっては、高齢者施設というのは「ネタの宝庫」だと思う。

「一人ひとり人権を尊重して人間らしく扱わなくてはいけない」などとまともに正面からがちんこにぶつかって深刻に考えてばかりいたら、心身消耗して疲れきってしまう。
珍行動を正すことは、おそらくムリだ。

それよりも、真正面から向き合うばかりではなく、たまにはもっと引き気味にみてみたり、珍行動の観察、くらいの距離感で接してみたり。

一見すると、「バカにしている」と思われるかもしれないけれど、そうではない。
その人の中から、「おもしろい」という要素を抽出して、その行動を「おもしろ行動」としてとらえることで、

「奇怪な行動」→「おもしろ行動」→「笑える、ウケる」→「クスっ」→「かわいい」→「愛らしい」→愛情を持って接することができる

そういう工程を経ることで、珍行動続出ワンダーランドでも、明るく仕事をすることができるのではないか?
私はそう思っている。

***
昨日、ホームで電車を待っていたら、
大声で独り言を言っている人がいた。
よく聞いていると、全編車掌さんのセリフを話している。
電車がホームに到着する絶妙なタイミングで、
アナウンスもしていた。

一緒に電車を待っていた次男が、それを見て、
「東京っていろんな人がいてたのしいよね。電車に乗っても、アナウンス続くのかなあ」と笑って言った。
その男性は私たちとは別の電車にのってしまい、次男は少し残念そうにしていた。

次男もわりと、「動物園」が向いている。
私はそう思った。





この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

読んでいただきありがとうございます! 記事を気にっていただきましたら、 投げ銭感覚でサポートしていただけますと、 次の記事作成の励みになります♡