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先生・父親・音楽…映画『コーダあいのうた』で、印象に残った3つのシーン

シアン・ヘダー監督の映画『コーダあいのうた(原題:CODA)』(2021)には、きになるテーマがたくさん含まれていました。
とにかく多いので羅列してみます。

①『エール!(原題:La famille Bélier)』(2014)リメイク作であること
②CODAとはChild of Deaf Adults(聾者 の親と暮らす子供)の略称
③主人公のルビーは、子供の頃から家族のケアをする「ヤングケアラー」
④聾者を演じているのは、聾者の俳優 
⑤聾者の俳優で初めてオスカーを獲得したマーリー・マトリンが母親役
⑥アメリカ手話(ASL)を使って家族が会話している
⑦普遍的な家族の物語になっている
⑧音楽の力を感じさせる。
⑨高校時代の恋をさわやかに描いている

フランスの映画『エール!』(2014)のリメイク作で、ほぼ同じストーリーなのですが、オリジナルよりも『コーダあいのうた』のほうが、多様な要素をより分かりやすく描いていると感じました。

上記の9つの部分は、映画を鑑賞したみなさんと、とことん語り合ってみたいほど魅力的です。印象的なシーンがたくさんある映画でしたが、今回は、特に心にのこった3つのシーンについて記しておきたいと思います。

※シーンについてのネタバレになる描写があります。

①音楽教師になったことに後悔はない。天職だと思っている

ヤングケアラーのルビーは、家業の漁業を手伝っているので、恋人も、勉強も、遊びにも没頭することができない高校3年生です。
でも、ちょっと気になる男子がいて、彼がコーラス部に入ると知り、思わず自分もエントリーしてしまう可愛い部分もあります。
このコーラス部の先生が素晴らしい教師でした。彼も音楽の道でアーティストとしては成功できなくて、音楽教師になっているわけですが、「教師として生徒に音楽の素晴らしさを教えられることは最高の喜びだ。」というようなことを真剣な表情で語るシーンがありました。
彼がルビーの音楽の才能を見出すのですが、このように生徒の才能を導き、渾身の指導をしてくれる先生って、ほんとうに存在するのでしょうか?
少なくとも、わたしは出会ったことがなくて、彼のような先生に10代のころに出会えるだけでも、ルビーはかなり幸せな人間です。

②耳の聞こえない家族が、娘のコーラスの発表会を聴く

家族の中で一人だけ耳が聞こえるルビーは、音楽の才能があり、コーラス部の発表会のデュエットに選ばれます。
お父さん、お母さん、お兄さんは耳が聴こえないのですが、もちろん発表会を見に行きます。
ルビーの歌声は聞こえないのですが、観客の反応を見て「素敵な歌声なんだ。」と理解するわけです。
そのときに、お父さんには、ルビーの歌声がどのように聴こえていないのかを描写するシーンがあります。
この描き方が、わたしには衝撃的でした。
「こんなふうに聴こえていないのか」ということがショックでした。
耳が聞こえないということを、ある意味体感できるシーンになっています。

発表会のあと、帰宅したルービーが、お父さんだけのために歌を披露するシーンも好きです。父と娘の信頼関係が描かれていて、素敵なお父さんだなぁと羨ましく思いました。
父親役を演じたトロイ・コッツアーは、第94回アカデミー賞助演男優賞にノミネートされています。

③家族と外部をつないできたルビーが、自分と家族をつなぐ歌を歌う

生まれてきてからずっと、家族の思いを外部の人に伝えてきたルビー。
聴こえない人と、聴こえる人の間をつないできた存在の彼女は、家族の中では一人だけ耳が聴こえるという「異質」の存在でもあります。
そんなルービーが、自分の歌を家族に伝えるシーンがあります。
音楽大学のオーディションで歌うルビーは、客席に家族の姿を見つけて、手話を交えて歌い始めます。
音は聴こえないですが、手話で歌詞の意味を知り、ルビーのパフォーマンスを体感できる両親と兄。
とても感動的なシーンで、音楽の力を感じたし、目には見えない家族の絆も感じて、映画鑑賞中の劇場でもこのシーンで涙を流す人が多かったです。

ここでルビーが歌っているのが、ジョニ・ミッチェル「青春の光と影」という曲です。この曲も、私の心にずんずん刺さっていきました。

映画全体の感想としては、少し話がうまく進みすぎるかなと思うところもありましたが、ヤングケアラーの問題を感じつつも、家族の絆っていいなと羨ましく思う部分もあり、なんだかんだ最後は涙を流している自分がいました。

耳が聴こえても聴こえなくても、家族の問題って普遍的な問題です。
父と娘、母と娘、兄と妹、先生と生徒、そしてCODA。
鑑賞する人のバックグランウドによって、さまざまな視点で没頭できる多様性のある物語です。
多種多様なテーマを盛り込んでいるのに、鑑賞後には不思議とさっぱりとした思いに浸れる素敵な映画でした。

映画『コーダあいのうた』(2021)

https://gaga.ne.jp/coda/

第94回アカデミー賞 部門ノミネート
作品賞
助演男優賞 トロイ・コッツアー
脚色賞 シアン・ヘダー


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