見出し画像

小さなオルゴール#青ブラ文学部


離婚を経て、私は実家に戻ってきた。
心身ともに疲れ果て、自分を見失っていた私を母は優しく迎え入れてくれたが、私は前を向けずにいた。

ある日、母に頼まれて部屋の整理をしていると、私は子供の頃に母からもらった赤いハート型のオルゴールを見つけた。そのオルゴールは、母の愛情の象徴だった。優しいメロディーを奏でるそれを手に取った瞬間、私の心に温かな記憶が蘇る。

思春期の頃、私は母とよくケンカをした。
私は怒りに任せてそのオルゴールを捨ててしまったはずだった。
オルゴールに自分の姿が重なった。

母はごみ箱からオルゴールを拾い大切にしまっていてくれたのだろう。

私は母に謝罪した。 「ごめん、あのオルゴール。拾ってくれたんだよね。」
母は優しく微笑み、
「これからはオルゴールも自分のことも大切にしてあげるんだよ」

母の言葉に、込み上げてくる感情を抑えきれなかった。



その夜、ネジを静かに回すと少し歪なメロディーが流れた。
小さなオルゴールはまだ鳴っている。

こちらの企画に参加しています。
いつも素敵なお題をありがとうございます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?