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探訪記:禅と雨とモーターサイクル[#6]

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高速道路にのる前に給油4.7L。リッター30キロ以上走っている計算になる。燃費のよさにびっくり。正月営業のショッピング・センターの窓近くの席で、コーヒー2杯、ピザ2片を食らって、からだを暖めなおす。

もともと高速を走るのは好きじゃないけれど、それでも今日は空が明るいのが救い。湖北を過ぎて平野部にでると日も差してきた。サービスエリアに入りサングラスを取り出す。とはいえ、寒いことに変わりはない。ヘルメットもとらず鼻水を流し凍えながら手をこすり合わせているわたしの前を、正月休みでねぼけた家族づれがアイスクリームを手に歩いてゆく。

どこも道はすいていたけれど、わたしがおりる名神・京都南出口はさすがに初詣の四輪の列で混んでいた。

自宅にもどり風呂に入った後、ゆっくりお茶を飲みながらもう一度 “Long Quiet Highway” のカバー・ジャケットを見た。田舎道が描かれたその絵はずっと前から親しみのあるわたしの好きな絵だった。いくらかエドワード・ホッパーの作品とも通じるものがあった。

ひとつの気がかりは、アメリカの書籍でタイトルが “Long Quiet Highway”なのだから、西部をつらぬくあの伝説のルート66みたいに、もっと堂々とした写真でもよさそうなのにと思っていた。

いま見ていて、はっ、とした。何度も見たこのジャケットの絵は、まさに、あの北田の町並みから、山手の泰蔵院の方向を見たときの光景そっくりではないのか。電信柱の並びかた、両側の畑と枯れ草の色あい、そして何より、きわめて日本的な山の尾根のライン。

7年前にオークランドではじめて見たときから今日のこの瞬間まで、まったくわからなかった。そうだったのだ。ナタリーが書き記した “長く静かなハイウェイ” は、日本海が見える、あの福井県の「北田」の山までつづいていたのだった。

カバー・ジャケットが写真ではなく、絵であることも説明がつく。描かれた絵であればこそ、ジャケットに相応しい微妙な象徴化の過程がとれるというものだ。写真であれ記憶の中の風景であれ、ナタリー自身が編集者と相談し、このような風景で、と要望したのは間違いないだろう。

何かと何かがつながって、大きなリンクを形成し、それを自分ひとりではとうてい抱えきれないものであるかのような感覚をおぼずにはいられない。
古来、精神の旅をつづける人々はこのような感覚をきっと本質的な意味において「因縁生起」と呼んだのだ。万物はつながっていて、単独で存在しているものは何もないのだから。

40年前に福井県を出発した片桐禅師がアメリカで生徒を教え、そしてナタリーがすばらしい本を書き、それを読んだ大阪に住むわたしが、福井県を訪れ、いま本のジャケットをつくづくとながめている。[終]

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<注>
1)朗読されていたこのパートは、'Rain and the Temple' という題で、2016年発行の紙の本 "The Great Spring" の第9章に収載されている。
2)2010年時点における北田の世帯総数は、42世帯(総務省統計局)。
3)奥村正博 (2000).「多様性と同一性との出会い」『法眼』第7号
4)秋葉玄吾 (2012).「スティーブ・ジョブズと禅」『SOTO禅インターナショナル総会講演録』
5)ロバート M. パーシグ 著, 五十嵐美克 他訳 (1990).『禅とオートバイ修理技術』めるくまーる
6)片岡義男 (1996).『彼の後輪が滑った』大田出版, p.214
7)シェルドン B. コップ 著, 野矢茂樹 訳 (1987).『ブッダに会ったらブッダを殺せ』青土社, p.23

(初出2004年1月)

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【Featured Author: Natalie Goldberg】英語字幕(自動生成)

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