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【ゲームレビュー】夢とピエロとひとさじの狂気と「バランワンダーワールド」

ピエロの出てくるゲーム

「バランワンダーワールド」は、ピエロをモチーフにしたキャラクターが、恐怖の対象ではなく、愉快なやつとしてたくさん登場するゲームだ。
検索するとホラー映画ばかり出てくる「ピエロ」がいいやつとして複数出るのは、映像作品を含めても珍しいんじゃないか。

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こうして並べると、なんとなくキャラクターがカワイイだけを目指したデザインじゃないのを感じる。このセンスが、ただのファンタジーにおさまらない、ひとさじの不気味さを添えている。

ピエロは異世界の案内人 

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プレイヤーは「バラン」という年齢性別不明シルクハットに導かれ、悩みをかかえた人の精神世界に入っていく。
フル3Dの箱庭空間は、最初は移動とジャンプしかできない狭い世界だけど「着替え」によって広がっていく。
どこもはっきり色合いの違うエリアには、何十種類もの衣装が落ちていて、全てに違うアクションがひとつづつ割り振られているのだ。

「高いところからゆっくり落ちる服」
「火をふいて攻撃できる服」
「隠しブロックが見える服」


など、3着ストックして、エリアによって切り替えて進んでいく。
穴に落ちたりすると服がなくなるので、どこをどの衣装で行くか、あらかじめ何着も同じ服を用意するとか工夫してステージを攻略していく。

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これは灯りをともす衣装。こってりした濃い発色や、3Dの世界をくるくる見まわすこと自体を楽しむ感じはニンテンドウ64っぽい。

今トレンドの高難易度死にゲー、ステルス、バトルロイヤル、荒野を自由に開拓するゲームではないけど、ロクヨン世代なら
「子供のころ夢中になったゲーム原体験に近い!」
って人がいそう。

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夢のような悪夢のような世界を探索して、最後は、悪意に飲まれてモンスター化したひとと戦い、勝利のダンスでしめくくる。

衣装によってはジャンプもできないという不便さに最初は面食らうから、体験版では最初のマイナス印象で不評をかってしまったんだけど、戦いがやさしいからひんぱんに着替える必要もない。

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私このゲーム好きだな、とはっきり確信したのは、虫好きでクラスメイトに嫌われた女の子を救うために進んでいるのに、その子に見られていた場面。
助けるはずが、気が付いたらこっちが虫かごサイズでクモになっている。
夢の空間に狂気がまじり、フェティッシュな香りもする。

どこなのか説明のない世界を探索していてデカイ人に見られるシチュエーションと、最近のゲームには珍しい、はっきりしたメロディのあるここちよいBGM
これは・・・この先、メチャクチャひどいものが来るかもしれないし、信じられないような未体験ゾーンを見せてくれるかもしれない。どちらにしろ、何を見せてくれるのか予想がつかない! それだけが嬉しい。きれいにまとまった作風じゃないものがもたらすワクワク感。嬉しくなって、よし久々にアクションゲームを最後までやるか、と姿勢を正した。

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ゴージャスなステージを終えて、リザルト画面ではオルゴールのような寂しい音が流れる。楽しい夢からさめた感覚。寂しくて愛しい瞬間。

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アクションステージで取った宝石は、拠点をうろついている「ティム」のエサになる。ティムはたくさん食べると進化して大きくなったり、いろんな柄やアクセサリーのついたやつも出てくる。
宝石が涙のような形なのも、ピエロの涙をイメージしてるのか。
ゲーム中に入る「バランチャレンジ」というイベントが宝石倍増のチャンスなので、しつこいと言わずぜひ狙っていきたい。

ヘッドホンで遊ぶと、ティムから心臓音ではなくコチコチ時計の動作音がする気がするけど、どうすればどう育つといった法則はよくわからない。
このゲーム、全貌が見えないのだ。バランの正体もはっきり明かされないしクリア後の全要素なんて見れる気がしない。

ティムはTIMEが由来なのは間違いないと思う。
彼らが作っているのはどうやら巨大な、からくり時計のようだ。
夢のような時間の最後にできるのが時計。
悪夢を終わらせるのが目覚まし時計なら、夢をあきらめさせるのも時間。

ひとまずのエンディングを迎えると、バランは子供たちを抱きしめ、テーマでもある「どんな時間も無駄ではなかった」とメッセージが表示される。
自分としては、たくさんの衣装それぞれ個性があるゲームだから
「ひとは、何にでもなれる」
とか、可能性を感じさせるメッセージを出してほしかった。

地味な大人になっちゃっても、役立たずではない。
どんな姿に成長しても万能ではない。
なにかひとつできることがあれば、進んでいける。

バランは、親が子供に作ったゲームのようだ。

「バランワンダーワールド」は父性を感じる

プロデューサーは元セガの中裕司さん。その名を世界に知らしめたソニックは「オラオラ」なキャラだった。

ていねいに作った世界を高速で突破する。ハリネズミがアメリカではメジャーだったとか、いろんな要因はあるけど、マリオより「ちょいワル」で「ケモノ」、相棒テイルズといっしょに行く「コンビ感」。(マリオとルイージはそのころ交代制だった)
最近は日本でも獣人キャラが盛り上がってるけど、それよりずっと前から海外ではめちゃくちゃ人気あった。

ソニックに比べると、バランはプレイヤーの保護者のような存在だ。
中裕司さんとゲームを直接つなげるのはおかしいのはわかっているけど、本人の生き方が反映されていると思う。
「ソニック」「ナイツ」Wiiで小粒のゲームをいくつも作っているけど、そういえば海外で受けても日本では二番手のハードだったり、評価は高くても日本の子供たちがこぞって話題にするようなきれいなメガヒット作品がない。このゲーム完成後は引退をほのめかすツイートをしているけど、最後に子供世代に遊んでほしかったんじゃないかと勝手に想像してしまう。

残念ながら、当の子ども世代に「バラン」が届くかというとまた別で、今ゲームハードを持っていてアクションゲームをする人は、もっと激しいアクションを求めているし、複雑な操作に慣れているし、難易度の高いガッツリしたゲームと真剣勝負を求める人が多いのだろう。

連想したのは宮崎駿がキャリア末期に手掛けた「崖の上のポニョ」。
子や孫の世代に向けて作ったけど、当の子供世代ではなく、大人世代が細かい魅力を探して楽しんでいた。

バランの表情をかくしている帽子をとると、中さん本人が出てきそうな気がするのだ。そういえば、ピエロもコスチュームが重要な職業だ。素顔は本当に笑っているのか。泣いているのか。


読んでくれてありがとうございます。 これを書いている2020年6月13日の南光裕からお礼を言います。