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短編小説【聴けばめだたき千代の声】四

第四声:女戦士の日常

怒りというのは時に爆発的な力を発揮する。
怒りの力を利用し、己を向上させる事も出来ればソレに飲み込まれ自滅する場合もある。
「さじ加減」という言葉と概念があるが、それは「怒り」には適応しないし通用しない。

和美さんは怒り成分90パーセントで出来た人類で、常に何かしらに怒り、問題提起し、「絶対に許さないし負けない」意志で生きていて、自分に限りなく似ている思想の和美さんが私は大好きだ。
和美さんは「おてんばな福江さん」とも仲良しで、福江さんと仲良しの金村さんとも・・・まあまあソコソコ仲が良い。
和美さんが金村さんを「イマイチ」と思っている理由は「あの方はキレイゴトばかり言う人で心が伴っていないから嫌よ。」との事だ。
それでも近所付き合いが大切な和美さんは、散歩の途中で金村さんに会えば一緒にその道のりを歩いたりも出来る寛大さを兼ね備えている。

極力近隣住民に出くわさないように気を付けている私でも和美さんとの「偶然の遭遇」は嬉しい。

夕暮れの遊歩道で野草集めをしていた私はイノシシ御一行の気配を感じ、それらが威嚇してきたのを察知し、静かにその場を立ち去り少し離れた場所から走って逃げた。
その先にには和美さんと金村さんが居た。
「どうしたの、あなた!?そんなに走って・・・変態でも出たの!?怖いわ!あなたが焦ってるような姿を見ると・・・。」
わたしは近所でも有名な「野生的人類」であるため、和美さんはわたしの姿から”何か”を感じて顔色を変えた。
「変態ならぶちのめしてやるけど、もっとコワイ奴だよ!イノシシ!ヤバいから散歩コース変えたほうが良いよ!奴ら気がたってるから!」
和美さんはいきなり怒り出した。
「何てことなの!ここは人間様の住む場所よ!そんなところまで進出してくるなんて道理に反してるわ!」
そうは言っても此処は「山の住宅地」で野生動物などはいつでも気軽に来れる場所だしそれが常で、和美さんもそれは承知のこと。
しかも野生動物に「道理」は通用しない。
「うん、まあ~そうなんだけど、この先の藪笹の空き地あるでしょ?そこに今イノシシ居るし、しかもチョット危ない周波数出してたから、和美さんは今来た道戻って、今日はこの先には進まないで。」
「許せないわ!私たち人間様の聖域で好き勝手やるなんて!バカにするんじゃないわよ!私がこうやってギューっと睨みつけて人間様の恐ろしさを知らしめてやるわよ!私に適うとでも思ってるのかしら!?」
多分、それはあまり効果無いし、どう考えてもイノシシには敵わないですよ・・と、思った。
金村さんが言った。
「愚かよ和美さん、イノシシ相手じゃどうしようも無いじゃない。」
ごもっとも、よくわかっている。現実が見えている。
「和美さん、あんただってバングリーさんの事よく知ってるでしょ?この人(わたしのこと)、半分野生みたいな人よ?その人が逃げて走ってくるんだから私たちじゃ太刀打ち出来ないわよ、戻りましょうよ。」
その通り、賢い選択だ。
「バングリーちゃんは私より若いのよ!?私のが人間様としての経歴は長いわよ!わたしがギュー―――って睨みつけて撃退してやるわ!」
いやいや・・・。
「和美さん!!!やめてよ、わたしは和美さんの道ずれにはなりたくないし和美さんが襲われるところなんて見たくないわ、戻りましょう!」
金村さんは”燃える闘魂の和美さん”の腕を強く引っ張った。
がみがみ言いながら和美さんは金村さんと一緒に、今来た道を引き返していった。
気が強いのは良い事だけど九十歳近いババアがイノシシとは戦えない。
たとえギュー―――っと睨みつけても。
和美さんがあと四十歳位若かったら、わたしの最高の相棒になっていただろうと思いながら陽が暮れる。
・・・・「人間様」・・・・
和美さん位の年頃の人がよく使う台詞。わたしは母の事を思い出した。
和美さんの闘魂がいつまでも勢いを失わずに燃え続けますようにと、わたしは南の空に願った。





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