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【読書記録】オルタネート/加藤シゲアキ

久しぶりに夢中になって読んだ。
私好みである。

加藤シゲアキくんの作品は3作目。
ピンクとグレー」「傘を持たない蟻たちは」そして直木賞にノミネートされたこちら。
以前の2作を読んだ時は
「ほう、ジャニーズの子はこんな作品を書くのか!」であった。
(上から目線ですみません)
「傘を持たない蟻たちは」は短編集で、少しSF要素も入りつつ、
グロテスクな描写やラストにどんでん返しを持ってきたりという展開で、
ふむふむ、若干ひねくれた子なのかしら、シゲアキくん、なんて
想像しながら読んでいた。(失礼)
が、しかし、「オルタネート」に関しては、
誰が書いていようと関係ねえ、面白い!と
シゲアキくんを頭から完全に抜いて物語に没頭していた。

「オルタネート」
は、高校生に限定されたSNSアプリ。
実名を検索して、メッセージを送ったり高校生同士で繋がる、という仕組みに加え、自分の趣味や嗜好を「オルタネート」に読み込ませ、
AIが相性を数値化し、「おすすめの相手」を挙げてくれる機能がある。
いわゆるマッチングアプリ的な。

それを話の軸に、
「オルタネート」に心酔しきり、「オルタネート」で「最適な相手」を見つけると
息巻いている凪津(なづ)という少女。
過去に「オルタネート」で嫌な思いをして、オルタネートから距離を起きたいと思っている蓉(いるる)という少女。彼女は調理部に属し、「ワンポーション」という、高校生の料理対決番組に燃えている。
高校を中退し、「オルタネート」から弾き出されてしまった少年、尚志。

三人の目線で物語は進行していく。

注目すべきは、凪津という少女で、彼女は「オルタネート」をするために全ての自分の情報を、登録している。他の子たちが適度に相性の良い相手に会って、なんとなく付き合っているのに対し、彼女は「完璧な」相手を見つけようと必死になっている。
ここで、このアプリが高校生を限定にしているところが面白い。
大人は、いくらAIが「マッチング度」なんてものを挙げても、この世に完璧なんてものは存在しないことを知っている。
遺伝子レベルで相性がいいなんて言われても、それでも自分は自分。相手は相手。すれ違う時はすれ違うし、出会いがあれば別れもあることを知っている。
それに、恋愛対象が高校生だけに限定されないことも知っている。
私の結婚相手は高校を卒業してから、二十も上なのだから。
相性の良し悪しは知らんけど。

けれども、高校生は違う。
高校生相手の恋愛が主だろう。
私も高校生の時はそうだった。
この人こそが全てで、この人との人生がずっと続いていくのだと信じていたかった。たとえ、「何か違う」と思っても。
それが、AIがおすすめしてくれた70%で、「なんとなく」付き合い始めて、マッチしていると思って、それなりに楽しくて…なんて周りの子を見ていたら、
90%という数字が現れた…
そういう高校生ならではの危うさを、この凪津という少女が一途に秘めていて、
ああ、この子はそのAIが弾き出した数字の相手に納得が行かなかった時、
別れが来てしまったとき、どうするんだろう、と思いながら、
大変、興味深かった。

そして、「ワンポーション」という料理大会。
シゲアキくんの「傘を持たない蟻たちは」の中で、すごく印象に残っている
「イガヌ」という謎の食べ物の話。「イガヌ」はグロい展開だったが、
こうした食べ物や料理の描写がなんとなく共通していて、
シゲアキくんの中に確固たる食べ物への何かしら執着なり
こだわりなり、好みがあって、そこへ向かって徐々に昇華している
印象を受ける。
食べ物を作る描写も、レシピも素朴なものから
華やかなものまで会って、読んでいて面白い。
この蓉(いるる)ちゃんの物語展開は個人的にとてもツボ。
高校生の淡い恋模様。大好物。
爽やかなこの恋愛展開は、これまでの暗ーい印象の物語とは打って変わって、
すごく好き。言葉のやりとりとか、オシャレやん?みたいな。(何目線)

高校を中退した尚志という少年の葛藤であったり、
この年代特有のそれぞれの、もやもやが描かれていて、
「オルタネート」という架空のアプリだけではない、
青春群像劇が加わって、
非常に私好みの物語だった。

加藤シゲアキ氏…次回作も楽しみ。



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