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微世界で 優先席の 前座り 師走無縁の ミニ先生と

「おっと、今日はだれも来ていない」お気に入りのカフェに来たのは営業開始直後であった。

このカフェは山の中の小さな里にあるが、実はバス停からも近く駅までも歩いて行ける。古民家を改築した中にはレトロなアナログ盤を使ったBGMが流れているのだ。

「音楽もいいけど」音楽以上に好きなのは食べ物だった。ここでは本格的な味のスパイスカレーをいつも食べている。だが今日は違った。早く来たので限定の糀(こうじ)を使ったメニューが残っていたのだ。

ということでいつもと違って、糀を使った料理の注文した。「うん?」料理を待っている間、目の前を見る。ひとりなので目の前の席が空いているが、その席にはすでに座っている気配がした。

「透明人間?」ばかげたことを考える。もちろん透明人間などいるわけがないが、何度も見ても気配がするので首をかしげた。

「ああ、微世界の先生かもしれませんね」料理を持ってきた店の人が、意外なことをいう。店の人の話では糀を使う料理を用意してから、糀菌なのかそういうものが店の中で住み着いているような気がしているというのだ。そして店の人は彼らを「先生」と呼んでいる。好評の限定糀料理のもととなっている存在に敬意を表しているのだ。

「そんな話、醸造所で聞いたことがあるなあ」目に見えなくても微生物は空気中にたくさんいる。その中のひとつが気配として目の前にいるのかもしれない。「だったらこっちの席で良かったな」と思った。知らずに目の前の席を座っていたら、優先的に座っていた微世界の先生に申し訳ないかなと。

「もう師走か、でも、目の前に座る微世界の先生は走ることなく目の前でたたずんでいるのかな」そう心の中で呟きながら出てきた料理を食べる。いつもとは違う味だったがやはり美味だ。

BGMが流れる静かな空間。今日の音楽は詳しくないがおそらくハワイアンのようであった。そしてなんとなく頭の中から文字が浮かんで来る。それがつながったかと思えば短歌だった。

微世界で 優先席の 前座り 師走無縁の ミニ先生と
(びせかいで ゆうせんせきの まえすわり しわすむえんの みにせんせいと)

今回は趣向を変えて、毎週ショートショートnoteの企画に参加して短編小説を書きました。(お題:優先席の微世界先生)

今日はこちらの記事「河内長野河合寺の古民家カフェへのへの」をモチーフにしています。


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