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路地奥に 逃げて見つけた 冬水場 ギリのところで どんでん返し

「よし、どこか隠れるところはないか」後ろを振り返ったが追ってはこない。もう少しのところで取り返しのつかないことになりそうだった。きっかけは数日前のことだ。

あるサイトを開くと保健室のモニターを募集していた。内容はアメリカ製の保健室に1日籠って体験するだけで高額モニター料がもらえるという内容だ。高額バイトは少し怪しいとは思ったが、バイトではなくモニターだったら体験するだけだから大丈夫だろうと思って申し込む。すぐ返事のメールが来て、署名するように言われたので、署名をして出かけた。

そして保健室に入ってパジャマに着替える。アメリカ製といっても見た目が日本の保健室と同じで、英語表記が並んでいるだけだ。

ところが数時間後異変に気付いた。監禁されてしまったのだ。管理人というのが入り口にいて出ることが許されない。トイレも行くことすら認められないという。「24時間出てはいけない」というのだ。だが、隙を狙う。管理人がトイレに行ったタイミングで窓から逃げてきた。慌てて用をしてから走って町中まで戻ってきたのだ。

「目立つ、早く着替えたいな」保健室のパジャマのままで外に出ていいる。ここは古い町並みの前のようだ。目の前の建物が登録有形文化財と書いてある。周りを見た。幸いにも人がほとんど歩いていない。「うん、ここは」文化財の建物の横に細い路地がある。「隠れよう」そう思い路地の奥を歩いた。

奥まで歩くと小さな川のような水路があり、水が流れている。「あ、寒い」今まで逃げるのが必至、いまが冬であることを水路沿いに吹いた風により気づいた。

「おい!」突然の大声、慌てて振り返ると、管理人ではないか。「お前のパジャマには発信機が付いているから場所はすぐにわかった。保健室に戻れ!」「いやだ、監禁とは聞いていない」「黙れ、署名しただろう。ネットで契約した通りだ。24時間監視をつけたモニターを受け、その間こちらが用意した試練を受けると書いてあるのを見なかったのか」
「知らなかった。というよりそんな監禁など違反だろう」と言いながら気づいた。警察に駆け込めばよかったと。

「問答無用、お前は良い被験者だ。力づくで連れて帰る」そう言って管理者が少しずつ近づいてきた。管理者の身長は2メートルくらいで体重は100キロ近くありそう。冬場なのに腕が露出するような恰好をしていて、筋肉と筋が浮き出ている。

後を見た水路があって逃げられない。横にも逃げられそうだが、もう遅いようで相手の手が伸びた。「あ、ダメだ」思わず目をつぶる。
「そこまでだ」別の声が聞こえた。
「な、だれだ」「アメリカの保健室モニターは、君たちの製薬会社の違法行為である。人体実験のための詐欺であることが立証された。逮捕状だ。連行しろ」

警察官が複数姿を見せていた。警棒を持ち、けん銃に手をかけている者もいる。
「なんだと、あ!」管理者があっけに取られている隙に、うまく警察官の後ろに逃げ込めた。そうなると管理者がいくら体格が大きくても逃げられない。管理者は諦めたのか、あっさりと複数の警察官に連行されていった。暫くするとパトカーのサイレンが響く。

「怪我はありませんか。あなたの弟から通報頂いたことが、今回の事件解決につながりました。製薬会社の人体実験の全貌が解明されそうです。感謝いたします」と警察が声をかけてくれる。そうそう出かける前に、弟に一言伝えたことが、事件解決につながったようだ。

警察に持ってきてもらった服に着替えて再び路地から街道に戻った。街道から路地を振り返る。安心したのか短歌を詠む余裕もあった。

 路地奥に 逃げて見つけた 冬水場 ギリのところで どんでん返し
(ろじおくに にげてみつけた ふゆみずば ぎりのところで どんでんがえし)

今回は、毎週ショートショートnoteの企画に参加して短編小説を書きました。(お題:アメリカ製保健室)

ちなみに今日はこちらの記事「河内長野三日市町の文化財の建物の裏にあるもの」をモチーフにしています。

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