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タニグマー小説集2

12
短い! 早い! すぐ終わる! 短小(タニグマー)小説です。すみません。
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2024年3月の記事一覧

鬼を喰う口

鬼を喰う口

ガチャリ。
玄関の開く音。
「なんか来たー!」と叫ぶ母。
姉の手を引き、リビングにいた私のところに駆けてくる。
不穏な空気を感じ、頭が空っぽになる。
三人で玄関の方をうかがう。
暗がりに大きな人影。ゆっくり近づいてくる。
母と姉が大声をあげながら、何かを投げつけている。
人影が灯りの下に入る。
真っ赤な顔。口から牙。両手を上げて向かってくる。
「ぎゃー」と大泣きする私。
視界が真っ黒に染まる。

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電熱器

電熱器

♪春のこもれ陽の中で♪

ラジオから森田童子「ぼくたちの失敗」が流れてきた。
いまにも消えそうな、ささやくような歌声。

♪ストーブ代わりの電熱器 赤く燃えていた♪

貧乏学生だったあの頃。
木造モルタルアパート「富士見荘」の2階。(富士山が見えるわけではない)
風呂なし、台所・トイレ共用の四畳半一間。
窓を開けると、目の前に大家さんの庭の柿の木。(どれも渋かった)

朝、電熱器でお湯を沸かし、コ

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