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音楽…アイデンティティを紡ぐもの

20年ほど前のこと。

当時非常勤講師をしていた仙台の母校が創立100周年を迎え
その記念式典で仙台フィルと演奏してほしい、との
依頼を受けました。

指揮は梅田俊明さん。
曲はチャイコフスキーのピアノ協奏曲。

リハは前日一回のみ。
当日のゲネプロは式典の進行の都合で“なし”とのこと。

チャイコフスキーは以前にも演奏したことがあったものの
それはかなり準備万端じゃないと…いうことで
10年ぶりにロンドンへ
恩師エステルハージ先生の教えを乞いに行きました。

先生は、チャイコフスキーの本場
モスクワ音楽院で学ばれた方。

わたしの演奏をひととおり聴いたエステルハージ先生は
「(第一楽章の)出だしのゴージャスなアコードは
実はロシアバレエの“グラン・ワルツ”なんだ。
踊りを感じて弾いてごらん」と促してくださったり

あの美しい第二テーマを
「僕に3通りのアプローチで弾いてみせて」と。

わたしはその時のインスピレーションにまかせ
別人になったつもりで3通りを無心で弾きました。

「それでいい。
メロディーは“形”にはめないで即興的に歌いなさい。
君は、レッスン前お礼の入った封筒を両手で僕に渡したね。
僕たちが決してしない所作。きれいな所作だった。
君には僕たちにはない素晴らしいアイデンティティがある。
日本人の美しい感性がある。それを紡ぐんだよ」

  涙が溢れました。

それまで必死で、西洋人のように雄弁で大胆で、
自信に溢れた堂々たる表現を目指してきたのです。

「君たちはフレーズの最後にも無限の選択を持っている。
書を考えてごらん。ハネ、トメ、ハライ…どんな筆圧で?
…自分の感性を信じ、感じるままに弾くのを許しなさい」

グローバル化、グローバリゼーションという名の
“単一化”を求める声があちこちから聞こえる昨今。

せめて音楽くらい
“みんなちがって みんないい”、、いや、
“みんなちがう”じゃないとさびしいと思うのです。

  ワンネスとは“同じ”ことではなく
  違うものが響きあい“和”をなしていること

心に届き、心に響く演奏があるとするなら、それは
“中今”に生きる私たちの魂が奏でる
“紡がれたアイデンティティ”ではないかと思うのです。



#ピアノ協奏曲 #チャイコフスキー #ピアニスト #鈴木美奈子 #仙台フィル #宮城県第二女子高校
#ワンネス #中今 #恩師 #アイデンティティ

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