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とし総子
2024年5月7日 16:34
私が越してきた地域には、不思議な土地が存在する。その土地は私の暮らすアパートのすぐ隣にあり、まわりをフェンスで囲われているわけでもない。ただ、少し小高くなった土地の上に、背の高い花が咲き乱れ、誰の手も入っていないはずはないと思うのに、そこを手入れする人の姿を、私は見たことがなかった。そこはとてもうつくしい場所なのだ。そして、不思議な。ご近所さんとのお付き合いに苦痛を感じない私は、古くからアパ
2024年5月12日 09:03
生まれた場所は、それは小さな島だった。 自然は豊かで、花や蝶の彩は、鳥や魚にも写し込み、そこへ差し込む光さえ様々に様子を変える。うつくしい島。わたしの故郷。 そこにわたしが居られなくなったのは突然だった。 ある夕暮、これからを誓い合ったひとと浜辺を歩いていた。 可愛らしい子供たちが笑いながら手を振った。振り返すわたしに、そのひとは静かにこれからのことを話していたのだった。子供が群れて家
2023年11月25日 21:00
君が好きになったものは、全部覚えているんだ。それは菫色の雲の棚引く時間。君が好きになった背の高い男の子は、眼鏡が似合っていて、焦げ茶色のベストをよく着ていた。あの公園のベンチは座る部分が木製で、雨が降るたびに弱くなっていくような時期があった。そんなベンチに座って、男の子は文庫本を広げていた。革のブックカバーは使い込まれていて、小さな金色のアルファベットが二つ、くっつけられていた。傾いた日がそ