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本職UI/UXデザイナーが"枡"をデザインしたらこうなった! 〜転/コンセプトデザイン編〜

枡の原点である「お米」をテーマに、新しい枡のデザインを考えていくところにチーム全員で辿り着いたところまでが前回でした。

今回は「枡とお米の新しいご縁」という着眼点から、いかに魅力的な体験を伴う商品コンセプトに育てていったのかという、コンセプトデザインのお話です。

コンセプトと実験による二輪駆動

新しいプロダクト開発では仮説と検証が大切と言われますが、例に漏れずこの枡づくりでもコンセプト設定と実験とを繰り返し、どんどんコンセプトの姿を変えて洗練させていく、というプロセスを辿りました。

当初のアイデアの起点は「お米のサブスク・ネット購入×枡」。お米が入った枡を通い箱として使い、そのままスタッキングして保管、使うときは1合単位で計量されたお米をサッと取り出せるというコンセプトでした。

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枡本来の計量器としての使い方をもっとインスタントにし、「枡」ではなく「食品」として売ることで従来と異なるターゲットのお客様にリーチし、枡の流通量を増やそう、というものです。

皮算用では市場は大きいけど、少し考えると届いた枡の置き場所は?通い箱の返却はどうする?コロナ禍での枡の使いまわしには抵抗感がある、などなど問題は山積み。

コンセプトが上手く行かないときは実験あるのみです。
問題解決のヒントになりそうなことや、一旦そこから離れてお米と枡で他にできることはないか、大橋量器さんにお願いしていくつかの実験を試みました。

軽く・薄くすることで材料費や輸送コストを下げるための、厚み1.5mm(通常の一合枡は11mm)の超極薄枡。
見た目にはとても美しい枡が出来上がりましたが、枡のコストは材料費よりも工賃が支配的であることと、超軽量になることで枡のずっしりとした重みという魅力が削がれることがわかりました。

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再利用不能になった枡の活用方法の一案として、木材乾燥場の燃焼室で枡を炭にしてみる実験。
大きく変形しつつも、まだ枡の形状を保っている姿はどこか心惹かれるものがありましたが、有効活用方法がすぐには見つかりませんでした。

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そして、枡に生米と同量の水を入れて電子レンジで炊飯する実験。
これは大橋量器社長と自分とがそれぞれ試したところ、電子レンジから漂ってくる桧(ひのき)とご飯との合わさった、なんとも言えない幸せな香りがするということで意見が一致しました。炊きあがったご飯は芯がありあまり美味しくはなかったですが、この実験をした二人はその香りに、宝石の原石のような予感がしました。

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暗黙のタブーから見つかった"枡の新しい魅力"、そして方針転換

そもそも「枡を電子レンジにかける」ということ自体、破損させてしまいそうで普通はやらないある種の暗黙のタブーだったと思います。しかし、あえてありえないことをすることで、「まだ見つかっていなかった枡の魅力」を発見できました。

さらに発想を変えて、大切なのは香りなので、美味しくご飯を炊くところは炊飯器や土鍋に譲って、すでに炊けたご飯を枡に入れて冷凍し、電子レンジで温めるだけで気軽に、でも贅沢なご飯を美味しくいただける、という方針に転換しました。

この時点で、当初のお米サブスクの延長である「枡に冷凍のご飯が入ったものを定期購入」という案と、「自分で炊いたご飯を入れて冷凍する器としての枡」という2つのコンセプト案がありました。
そこで、また実験をすることにしました。

簡易ユーザーテストでわかった致命的な2つの問題

AICHI DESIGN VISIONの良いところに、複数チームが同時進行していて、協力をお願いできることがあります。そこで、他チームのメンバー4人に、2つのグループに別れてモニターをしてもらう、ユーザーテストを実施しました。

グループ1は自分ではご飯を炊かない人が対象で、「枡に冷凍のご飯が入ったものを定期購入」案を想定し、すでにご飯を入れて冷凍した状態の枡をいくつか送って食べてもらいました。
グループ2は、普段自分でご飯を炊いて冷凍している人が対象で、「自分で炊いたご飯を入れて冷凍する器としての枡」案を想定し、器としての枡だけを渡して使ってもらいました。

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そして、そこから2つの致命的な問題を見つけることができました。

まずグループ1からわかったことは、普段ご飯を炊かない人にとっては、簡単に美味しい白米が食べられるとしても響かないということ。それもそのはず、そのような人たちは白米だけを食べるわけではなく、一緒に食べ合わせるおかずを用意する必要があり、そもそもそうした習慣がないということでした。

そして両方のグループから共通してでたのは、桧の香りを強く感じて美味しくない、木の苦味のようなものを感じる、という意見でした。

幸い、これらの問題点と同時に優れたところもわかってきました。
それは、桧・枡の質感が非常によくて贅沢な感じがすること、そして、プラスチックのタッパーでご飯を冷凍・解凍するよりも断然ベチャ付き感がなくふっくらと仕上がるという性質でした。

その結果から「自分で炊いたご飯を入れて冷凍する器としての枡」というコンセプトを選択しました。
モニターとは別に、AICHI DESIGN VISIONのメンバーに取っていたお米・ご飯についてのアンケートから冷凍ご飯へのニーズは確かにあり既存市場があること、桧の香りなどの問題もありますが解決できる可能性はあることと、そして従来の冷凍ご飯に対して優位性があることが決め手でした。

「出会い〜購入〜使用」の一連のストーリーを短編小説仕立てで描く

ここまででこのプロダクトの大枠としての使い方は定まりましたが、まだどのような人が、どのようなシーンで使うのか、といったイメージはチームメンバーで認識がバラバラのままでした。

そこで、ストーリーテリングという手法を参考に、このプロダクトがどのようなお客様に、どうやって目に止まり、購入され、使われるのかといった一連のストーリーを小説仕立てで書き起こしてみました。

この小説を通して、チームメンバー全員でこのプロダクトのイメージをすり合わせ、販路やPR戦略、価格設定などの議論の土台となって、本当に商品として価値があるか否かを検証することができました。
拙い文章ではあるものの、「このプロダクトの本質」を共有することができたのです。

絵に描いた餅以上には価値のあるコンセプトへの到達

アイデアを考えている時には無意識に少なからずバイアスが存在するものです。それに流されないためには、今回のような実験や非常に簡易的なユーザーテストでもそのバイアスを打ち破ってくれる視点を得ることができ、さらに新たな魅力を発見することもできました。

市場規模としては当初の狙いよりも小さくなったかもしれません。しかし、胸を張って自慢できるコアな価値のあるコンセプトに到達できたのです。これはすでに絵に描いた餅よりも価値のある状態であると言えます。

いよいよ次回は、その価値の原石を磨き上げ、完成に至る完結編です。お楽しみに!


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