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本職UI/UXデザイナーが"枡"をデザインしたらこうなった! 〜承/アイデア出し編〜

前回はAICHI DESIGN VISIONに参加し大橋量器さんと一緒に新しい枡をデザインすることになった経緯についてお話しました。


高品質な枡を作り続ける伝統と、枡の技術や魅力を活かした革新性とを併せ持つ大橋量器さんと、これまでにない「最高の体験」をユーザーに届けるためにはどんな枡を作ればいいのでしょう?
今回はそのアイデアの方向性を導き出したプロセスをご紹介します。

なんでもアリの中から"何をつくるべきか?"を導き出す発想法

プロジェクトが始まり、まずは相手を知るところからと工房見学からスタートしたいところでしたが、日程を調整できたのは約1週間後。
全4チームの中でも最速ではあったものの、4ヶ月で商品の完成を目指すので、1日でも時間を無駄にするのはもったいない。

AICHI DESIGN VISIONのテーマは、「Afterコロナ生活を楽しくする商品」。結構なんでもアリなテーマです。
そこで最初にやったことは、枡のことは一旦置いておいて、After / Withコロナでどのような変化が起こりうるかという、未来予測を考えるワークショップをAICHI DESIGN VISIONの別チーム有志の方々も巻き込んで開催しました。

オンラインでの開催となるため、ホワイトボードツールのmiroを活用。
まずはアイスブレイクがてら、各々に実際にあった新型コロナ禍での変化を付箋に出してもらいました。

新型コロナ以降の出来事

ユーザーインタビューでも、「〇〇の機能は欲しいですか?」みたいな仮定の話ではなく、実際に体験したことを話してもらう方がユーザーの深い理解につながり、予想になかった視点を引き出せると言われますが、ここでも自分やチームだけでは出なかったような話を聞き出すことができました。

さらに、そこで出た内容をマインドマップ状に整理し、着眼点を洗い出すことで、アイデアを出していく土壌を準備しました。

アフターコロナマインドマップ

工房見学から見えた"枡"の本当の強み

その翌週、大橋量器さんの工房見学に伺いました。
このプロジェクトの4ヶ月の間で直接顔を合わせるのはこの1回のみ。それ以降はすべてリモートでの打ち合わせで進めていきます。

工房は、70年の歴史の中で建て増しされたであろう建屋に、見たことのない専用の加工機械、職人たちが作業する作業場、そんなアナログな空間の中に突然現れるレーザーカッター。これまで様々な工場を見てきましたが、やっぱり工場・工房見学は本当に面白いですね。機械がガシガシ動いているところは延々見ていられます。笑

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そんな工房に入って最初に感じたのは、なんとも言えない木の良い香り。枡の主材料である桧(ひのき)が切断、切削、カンナがけなど、様々な加工をされることで放たれている香りです。
高級な建材としても知られる桧なので、美しい木目や色味、目の細かさ、そしてカンナ掛けした断面の美しさはもちろんですが、香りも実は見た目からはわからない魅力の一つだったのです。(木によってこんなにも香りが違うとは、今回初めて知りました!)
その晩、帰ってからお土産に頂いた枡で呑んだ日本酒からも実感することができました。間違いなく、枡にとって桧の香りは最も大切なアイデンティティの一つだと感じました。

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そしてもう一つ気づいたのは、専用の加工機械によって非常に効率的に加工されていることでした。
まともに彫ると大変そうな組目のホゾの部分も、10枚程度の板材を束めて機械にかけると、ものの数秒でキレイに削り出されるし、組付けもこのGIF動画のように気持ちいいリズムで締め付けられていきます。
これらの工夫により、国産で、手仕事による非常に丁寧な仕上げの木製品で、しかも桧という高級木材にも関わらず、1個数百円という安さを実現していることがわかりました。
この「安くたくさん作れる」というのも、枡の持つアドバンテージとして印象に残りました。

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人々の集まりに彩りを添えてきたからこその苦境

ちなみに、この時に伺った話ですが、大橋量器さんではコロナ禍の影響で売上が最大75%も落ち込んだそうです。その理由はやはり、枡は結婚式や祝いの席など、人が集まる場に酒器として彩りを添えるのが現在主流の使われ方であり、そのように人の幸せを願ってきたものづくりが苦境に立たされていることを知り、本当にやりきれなく思いました。

メイン画像 キャンセルの枡たちのコピー

市場規模とAfterコロナでのニーズの2軸でアイデアをふるいにかける

工房を一通り見学させてもらったあと事務所に戻り、枡についての知識が深まったところで先ほどのマインドマップを使いながら、各着眼点ごとにアイデアを出していきました。

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ブレストなので玉石混交たくさんのアイデアが出ましたが、今回はその中から面白そうなものをみんなでピックアップし、メジャー市場かニッチ市場か、Afterコロナでニーズが増加するかどうか、の2軸でマッピングしました。このコロナ禍で大変な中、時間を割く=投資するのであればやはりたくさん売れるほうがいい。そして、むしろコロナ禍を逆手にとって追い風にしたい。

アイデア整理

そして、マップの一番右上に来たのが「お米のサブスク・ネット購入×枡」というアイデアでした。

辿り着いたのはありきたりな、でも真正面から向き合いたいテーマだった

「お米と枡」という組み合わせは、一周回ってありきたりな着眼点だと思われるかもしれません。でも改めて考えてみてわかったことは、お米はやはり巨大なマーケットであることと、それにも関わらず、枡とお米というイメージは根強くあっても実際には疎遠になっていた、ということでした。(もちろん、日本酒に形を変えたお米とは今もご縁の深い関係にありますが)

こんな時だからこそ、枡の原点であるお米との関係について真正面から向き合うことで活路を見出したい。それが工房見学の最後に、チームメンバー全員で辿り着いた結論でした。

これからデザインで目指すのは、「枡とお米の新しいご縁」による「最高の体験」。
スタート地点のアイデアは「お米のサブスク・ネット購入」でしたが、その後様々な検討・検証を繰り返す中で紆余曲折して姿を変えていきます。
そのデザインプロセスについては、次回お話したいと思います。

今回もお読みいただき、ありがとうございました。

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