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生まれた物語が、誰かに届きますように。
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【小説】どこにでもある恋の終わり#3

【小説】どこにでもある恋の終わり#3

「今日のお昼はカレーだった」
「今日の月、綺麗だよ」
「駅の階段で転んで恥ずかしかったわ」
「残業ダルい」

 読まれることのないメッセージを送り続ける。
本当はこういう時、「あの時はごめん」だとか「やっぱりやり直そう」だとか言うべきなのだろうけど、送ってしまうのは他愛のないことばかり。

 誰かを好きになると言うことは、何かを共有したいことなのだと思う。
共有する時間が減り、内容が減り、私たちは

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【小説】どこにでもある恋の終わり#2

【小説】どこにでもある恋の終わり#2

 一人部屋に残された私は冷蔵庫から普段飲まないビールを取り出してプルタブを上げた。
黄金色の液体が喉を伝い、口の中で苦味を含んだ炭酸が弾けた。
彼女が残していった、可愛い猫のパッケージのビールだ。

 彼女はビールを愛していた。
私の家に来る時にはいつも外国の物や、デザインの凝ったラベルの様々なビールを買ってきていた。
つまみの裂けるチーズと共に。

「こんな可愛いデザイン、絶対女に買わせるためだ

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【小説】どこにでもある恋の終わり#1

【小説】どこにでもある恋の終わり#1

 窓を開けると、春の匂いがした。
新学期に吸い込んだ、期待と不安が入り交じる匂い。
もう、緊張しながら通学路を歩き、新しいクラスの発表を見に行くなんてことはないのだけれど、この匂いを吸い込むと同じように気持ちが新たになる。
外国だと新学期は九月からだとか。
四季がはっきりしていて新たな生命が芽吹く春がきちんと訪れる日本では、四月から新生活を迎えるのがなんだか正しいような気がする。

 一昨日、正確

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