見出し画像

擬態して生きてる

わたしは自分の人生を持て余している。

10代の頃、将来は風俗嬢になって30歳までに死ぬと思ってた。
なのに30歳になっても生きてたし、風俗嬢にもならなかった。
普通じゃないことを隠して必死で生きるうちに、誰もが知ってる有名大学を卒業して、気づけば「一流企業」で働いてる。頭だって見た目だって悪くない。
たぶん、傍から見たら順風満帆のどこにでもいるバリキャリOL。

ずるいわたしは都合のいい時だけ普通のフリをして生きている。
だけどいつも思ってる。「順風満帆のあんたたちとわたしは違う。一緒にしないで」って。
そう、わたしは擬態して毎日必死で自分の狂気を隠してる。

13歳。ファーストキスをした。初恋相手の大学生は親友だと思っていた子といつの間にか付き合ってた。
それっきり親友は親友じゃなくなったし、特別な名称で関係性を確かめることなんてやめようと思った。

初体験の相手はわたしの目の前で包丁で腕を切るような男だったし、たぶんとても弱い人だった。私と同じように。

14歳。初体験をしてからすぐに体を売った。
別にお金に困ってた訳でもない。
それでもなんのためらいもなく簡単に自分を売れた。
『なんで体を売ってはいけないんですか?』面と向かって誰かに聞いたことはないけど、ずっと疑問だった。
だけど、どんな答えだって当時のわたしを納得させるようなものはなかったと思う。

生きてる実感が湧かなくて、腕をメスで切るようになった。
死ぬ気なんてなかったから制服に隠れるように。血が流れればそれでよかった。使い捨てのメスはカッターと違って少しの力で綺麗に血が流れたし、傷の治りも早かったからピッタリだった。20年経った今も薄っすら傷跡が残ってる。

16歳。ブルセラをしている所を拾われた。夜中の歌舞伎町、ゴールデン街、ストリッパーにSMの女王様。
大人はみんな優しかった。
だけどそれは私が女子高生だからだってことに気づいてた。

17歳。不倫をした。初めてこの人が欲しいと思った。
だけどどんなに泣いたって彼は手に入らなかった。

21歳。なんの罪悪感もなく子供を堕ろした。前日まで何食わぬ顔でキャバクラでシャンパンをあけて接客してる自分の神経が怖かった。

28歳。ハプニングバーで他人とセックスしてみたって現実は変わらないし、自称S男のいうSMなんてつまらなすぎて、わたしの脳内を満たしてくれる男は居ないと悟った。

34歳。一流企業の会社員に昇進・役員表彰というオプションを手にしても「こんなもんか」と何一つ喜べない自分の感覚に絶望した。

普通に生きられないわたしは、器用に擬態すれば所謂「普通」に溶け込めると思ってた。
だけどいざ順風満帆の人達に囲まれると、所詮擬態は擬態止まりで、わたしと彼らは似て非なるものなのだと思い知らされるだけだった。

わたしだけが感じている一方的なこの違和感のせいで、同級生が当たり前にしている普通の恋愛も結婚も自分には似合わないものだと知った。
気づいた時には後戻りができなくて。

普通と異常の狭間に落ちて、どちらにも染まれずにグレーゾーンの中で動けないでいる。

「順風満帆のあんたたちとわたしは違う。一緒にしないで」
そう言いながら普通に強く憧れて、同じ位嫌悪して、今日もわたしは擬態して生きている。

だってそれ以外の生き方を知らないから。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?