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中学時代-わたしが制服を脱いだ理由4

初めて腕を切ったのも14歳。
彼に出会う前だった。
逃げ場所をなくしたわたしが唯一生きてる実感を感じられる瞬間。

初めてカッターで腕を切ったとき、傷口から滲む血を見て
自分に赤い血が流れていることに酷く安心したのを覚えている。
そうして始まった悪趣味な一人遊びは段々エスカレートしていって
カッターだったものが使い捨てのメスになり、
一本だった腕の傷は次第に増えて、右腕一杯に広がった。

それでも長袖やガーゼに隠れた傷にしばらくは誰も気づかなかった。
ーー親でさえも。

少しずつ少しずつ、わたしは壊れていって、彼に出会った中学2年の春休みには
自傷行為が辞められなくなっていたし、軽い拒食症や過呼吸の発作が出始めていた。

それでもわたしはなに食わぬ顔で学校へ通い続け、変わらずテスト前だけは必死で勉強した。
派手な外見とは裏腹に、テストでは必ず好成績を残せるように。
それは大人と遊び始めた時に決めたことだった。

遊ぶのを我慢してまで毎日必死で勉強はしないけれど、
見た目通りに勉強が出来ないただの馬鹿にはならないように。
それに、成績さえよければ、大人はわたしに文句は言わないーー。
人生は経験数の多さだと思っていたわたしは、色んな経験をするために
大人に干渉されないこと、問題視されないことに力を尽くした。
そんなこともあって、親も含めた大人がわたしの異変に気づいた時、完全にわたしは手遅れだったんだと思う。

わたしに初めて人肌というものを教えてくれた彼は無口で、寂しそうな人だった。
そして、とても弱い人だった。

時々わたしの目の前で見せつけるように腕を切る彼を見て
「ああ、この人とわたしは似ている」と思ってしまった。

会うたびに私の右腕に増えていく傷を見ても彼は何も言わなかったし、
わたしも何も言わなかった。
彼とわたしの間には、いつも“ 寂しさ ”があって、それを埋めるためにわたしは
彼に抱かれていたし、彼もわたしを抱いていたんだと思う。
わたしたちは “ 寂しさ ”の共有をすることでしか繋がれなかった。
そしてわたしはそれ以外に男性と関係を築く術を知らなかった。

そうして彼に抱かれていたある日、突然彼の部屋の玄関のドアが開いた。
彼にすぐ布団を掛けられると同時にドアが閉まったことだけ覚えている。
ほんの一瞬の出来事でなにが起こったかわからなかったけれど
「ちょっと待ってて」と言って出ていった彼を見ても、取り乱しもしない自分に酷く違和感を覚えた。

彼には付き合って半年程の女子高生の彼女が居て、つい最近堕胎をさせたこと。
堕胎を決めた時に女子高生が自殺未遂を起こしたこと。
堕胎後もひどく不安定な彼女を落ち着けるために
「つらくなったらいつでも家に来て」と彼が合鍵を渡していたこと。
初めて合鍵を使った日に、わたしを抱いている彼を見てしまったこと。
その日から度々彼の部屋で彼女が自殺未遂を起こしていること。

一連の出来事全てを知ってもわたしは一切取り乱しもしなかったし、泣きもしなかった。

ただ、わたしの連絡先を知った彼女から来るメッセージを読む度に
少しずつ少しずつ、壊れていく自分を感じていた。

「椿さえいなければ幸せだったのに」
「私がこんなにツライのは椿の所為」
「どうして普通でいられるの?」
「私から彼を取らないで」

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