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友禅工房アルバイト初心者歓迎時給890円

「染色家になりたい」と
担任に言ったのは高校三年生の時です。

進学校ではない高校の中の

さらに進学する人のほとんどいない
「就職クラス」にいたけれど

マジメに就職する気などなく、勉強もイマイチで、

絵を描くのは好きだし、京都が好きだし、
いいかな・・・とか

そういうふわっとした考えで
先生に進路相談してしまったのです。

先生が本当に

「知り合いの山奥の染色工房の弟子入り先」を

探してくださった時は、結局びびって

「よ、よ、予備校に行って大学を受験します」
ということになりました。

その後、
東京でコピーライターとして
にぎやかに楽しく暮らしていたのですが

時々、日本橋のデパートなどで着物の展示会があると
こそこそ訪れ、

「やっぱ友禅作家になってみたいなー」と
思いました。

ある時、新幹線に乗っていて、
京都にふらりと下車しました。

そして嵐山の友禅工房を見学しました。

そして一日体験。
ハンカチに花の絵を描くのですが
初めてであちこちはみだしました。

けれど、
それがあまりに楽しくて、
作業中の工房へ上がり込んで正座して、

友禅作家のおじさんに、
「で、で、弟子にしてくださいっ」
と思わず言っていました。

会社は、仕事は、どうするねん???

いつでも常識が多少欠落しているワタクシ。

やりたい、と思うと
現実をすっかり忘れるのは
クセというかなんというか・・・。

おじさんはやさしく、
「あなたがね、今15歳だったら、弟子にしたげます」
と静かにおっしゃいました。

「・・・」

ことわられてるやん。

そらまあどう見ても10代には見えるはずないけどもー。。

はっきりことわられてるやんっっ。

いくら鈍い私とて、
完全拒否されたことに、気づきます。

すごすごと
工房をあとにしました。

「ちぇっ」

真冬の夕暮れの観光客の少なくなった
京都の街をうなだれて歩いていると

ひとり旅らしい青年に
「お茶しませんか」
と明るく声をかけられました。

なんてタイミングの悪い人でしょうか。

「はぁ?」

チョ-嫌な顔をしたために
茫然と立ちすくんだ青年をほっといて
ぷいと駅へ向かったのでした。

あれから10年以上が経ちました。。

今、京都に住んでおりますが、
「友禅工房アルバイト初心者歓迎時給890円」
とか求人の張り紙を見るたび、

「ちょっと、やってみよかしら・・・」

と、いまだしつこく思ったりしているのであります。