マガジンのカバー画像

C18H14CLFN2O3

23
服薬時、あるいは服薬前、あるいは発作後、あるいは発作前に書きなぐった文章。
運営しているクリエイター

2024年5月の記事一覧

18_変

「いかにして楽に死ぬことができるだろうか」
と誰もが一度は思ったことがある言葉。
検索を書ければ、ご丁寧にこころの健康相談が一番上に出てくる。
その網を掻い潜って、見つけたのは宗教やらスピリチュアルやら胡散臭いもの。
「辛くとも生きるべき」だとか。
「生きた先に光がある」だとか。
自分が求めている科学的な答えは見つからないし、最近では楽に死なれては困る人達がいるのではないかと思う事も多くなってしま

もっとみる

17_声

PTSDと正確に診断されたわけではないけれど、僕にはどうしようもなくなってしまう弱点が存在する。
それが声。主に罵声や怒声に使われる強い声。
聞こえただけでもう身体が震える、心拍が上がる、頭が痛くなるなどなど。
しかも内容はどんな事でもだ。冗談を冗談と捉えられない性格が災いして、何でも反応してしまう。
街を歩けば必ず誰かの罵声や怒声が聞こえてしまう。
工事で先輩らしき人が後輩に「どんくさいんじゃ!

もっとみる

16_怠

薬を飲み始めた頃、症状におびえていた頃、効果を実感したら、まるで幸せの魔法を手にした気分だった。大きなマイナスが小さなマイナスになっただけなのに。
「現代人は心が病みやすい」という記事を鵜呑みにして、今の自分はちょっと休憩が必要なんだと、だから安定剤を飲むのも普通なんだと、思っていたら、身体が折り返し地点を超えてしまった。
周りはもう子供がいたり、結婚したり、仕事で上司になったり、いやそもそも自立

もっとみる

15_抗

体調の波が良い方向に傾けば、自然と薬の量は減っていく。
その度に「断薬してみよう」とか考えてしまう。

安定剤と言うのは異常で不審な者をまるで普通かのように見せてくれる薬なので、
長期的に服用しているとどうしても副作用が気になってしまう。
私が飲んでいる主な副作用は眠気とふらつきだ。
ナルコレプシーほどではないが、抗えないほどの眠気に襲われ、仕事どころか思うような会話が、作業ができない。
立ち仕事

もっとみる

14_縫

症状が起こり始めた頃、ぬいぐるみを肌身離さず持っていた。
どこかへ出かけるという事すらできなかったので、家の中で常に一緒だった。
小さい子供がおままごとをしている時に、自分の子供役としてぬいぐるみを使っているのをイメージしてもらえれば分かりやすいだろうか。

当然、ぬいぐるみと会話する事は出来た。
もちろん声とか音はないが、心の中で会話ができたのだ。
外に出れない僕にとって人と関わる唯一の方法。

もっとみる

13_増

「1日1錠を目安にしてください。一応、2錠までは飲めます」
今飲んでいる薬を処方された頃、担当医に言われた言葉だ。

この薬に出会ってから、発作が起こる事はなくなった。
発作予兆が起きた時点で服用すれば、2,30分もすれば落ち着いてくるのだ。
副作用として足元がフラフラしたり、集中力が落ちてしまうが、死を連想してしまう発作が起こるよりもはるかにましだ。

しかし、人間と言うものは欲深いもので、次の

もっとみる

12_定

薬が効いてくるまで、安心感と焦燥感が襲ってくる。
やがてはまるで安心感が勝るように錯覚するわけだが、
それまでは焦燥感のせいで余計な事をしてしまう。

無駄な思いつきを調べてしまったり、
クリア済みのゲームをやってしまったり、
空腹でもないのに冷蔵庫を開けてしまったり、
訳の分からない文章を書いてしまったり。

さっさと布団に入って横になってしまえばいいのに、
電気を消すと謎の恐怖感が襲ってきてし

もっとみる

11_滞

「四肢が腐るぞ」
というセリフが頭に浮かんでいる。
確か、政を行う人が民に還元しないせいで国がダメになるって話。

私は臓器でもなく、四肢でもない。
精々、四肢に血液を送る一粒の赤血球ぐらいの存在だ。
勝手に生まれていて、勝手に壊れていて。
いなくなっても誰も困らない、誰も気がつかない。

臓器に向かって、四肢に向かって、「俺がいなきゃ腐るぞ」と言う私。
そんな妄想が毎日、自分に入り込んでくる。

もっとみる

10_毛

「目つきが変だよ」

そう言われてから睫毛を抜くのをやめた。
まだ外見を気にするほどの頃に指摘されたから、今はたまにしかやっていない。

一般的に、抜毛症というのは髪の毛が主らしいが、僕はそうではない。
僕の場合は髭や眉毛、脛毛など太い毛がそこらじゅうにあるからだ。
もし、僕が女性か毛が薄い男性であれば間違いなく髪の毛を抜いているはずだ。

歳を取ってくると肌の艶というか脂がなくなってくる。
その

もっとみる

9_哀

人間、四半世紀も過ぎるとおおよその立ち位置が分かってくる。
金持ちになれるか、成功できるか、そんな事が脳に刻まれてしまう。
宝くじが当たっただとか、貴重な品を持っていただとか、奇跡でもない限り。

私は下から数えたほうが圧倒的に早いランクにいる。

身体が心が健康というのは財産だ。
丈夫ならお金を稼ぐことができる。
社交的なら友人に困らない。

身体が不健康というのは財産だ。
不謹慎な事を言うかも

もっとみる

8_夢

「あなたの夢はなんですか」
夢を持たなくなったら終わりだ。

学生の頃、子供のような夢を思い描いていた。
まるで映画やアニメなどの主人公が抱く夢。
今はもう鼻で笑うようになってしまった夢。

社会に出た頃、テンプレのような夢を思い描いていた。
まるで映画やアニメなどのモブが抱く夢。
今はもうそれすらも叶わないと知った夢。

「夢を持たなくなったら終わりだ」
声に出さずとも心の中ではずっと思っていよ

もっとみる

7_騒

「今日は早退します」
と震える声で伝える。
相手は「どうして」だとか「なぜ」だとか色々と理由を聞いてくるけれど、返せるほど頭の中は落ち着いてはいない。
早くこの場から立ち去りたい。
ただそれだけしか考えられない。

施設から外に出て、すぐそこの公園で30分、1時間くらい座っていればきっと元通りになるはずなので、「休憩したい」と言えばわざわざ早退をする必要はないが、それはこの文章を書いている、落ち着

もっとみる

6_幻

これは夢の中の出来事である。

夢というのは大抵覚えていないか、あるいは覚えていてもまるで現実味のない展開を迎える世界が広がっているものだ。
しかし、私の見る夢は現実的でハッキリとしたものばかり。
しかもそれは全て私が死ぬか致命傷を負うか、惨めな目にあっているのどれかだ。

例えば。
銀行で待っている時に、銀行強盗がやってきて、人質として捕らわれる。私は指示に従い、静かに椅子に座っていたのだが、突

もっとみる

5_性

私が射精を恐れるようになったのは年荘の頃だった。

それまでは二、三日日に一度ほど義務的に行っていた。
弱冠の頃は気持ちがよい理由で射精をしていたが、頭の片隅では自分の遺伝子を枯らしたいという思いもあった。
射精する事で少しだけ「悪い種が実らなくなった」という自己満足が満たされた。

それが現在、歳のせいか薬の蓄積のせいか、射精後は耳鳴りと動悸息切れが頻繁に起こるようになってしまった。

それでも

もっとみる