47歳、独身ですが何か問題でも?【第一話】
※こちらの作品は、筆者が過去にカクヨム・エブリスタで掲載した小説を、再度推敲し直して、ブラッシュアップしたものとなります。
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第一話
白岩時次、47歳
白岩時次は、47歳。結婚を夢見て20数年、今でも婚活は継続中。47年間、彼女ができたことは一度もない。
時次は結婚するために、結婚相談所に登録した。
結婚相談所の女性が質問するのは、年収や仕事、学歴のことばかり。
「白岩さんは、どこにお勤めですか?」
「大学では、何を専攻されていたのでしょうか」
勤め先と年収はまだしも、学歴って結婚に必要?相談所の女たちは、誰も時次の内面について、知ろうともしてくれない。時次は、相談所の女性たちの態度にすっかり参っていた。
時次は、婚活が上手く進まないため、結婚相談所のカウンセラーに相談することにした。
「婚活がうまくいきません。どうすればいいですか」
「女性へのアピールには、プロフィールを充実させることが大切かと」
カウンセラーからは、プロフィールを丁寧に作成しなさいと指示された。
そこで時次は、自分の長所、短所を振り返りつつ、渾身のプロフィールを作成する。
プロフィールの情報を作成し直すと、すぐさま婚活カウンセラーよりダメ出しを受けた。
「この内容では、結婚は無理ですね。ただちに、内容を修正してください」と、連絡が届く。
「何を修正すればいいかわからないです」と、時次は答えた。
すると、婚活カウンセラーは時次に婚活カウンセリングをしないかと打診した。カウンセリングは、一回5,000円。またお金がかかるのかと、時次は重いため息をつく。
面倒と思いつつも、時次はカウンセラーの指示に応じて、カウンセリングを受けることにした。
「どうして、プロフィールを修正しなければならないのですか?何もおかしいところなんて、無いと思うのですが」
淡々とした表情で、時次はカウンセラーに相談する。すると、カウンセラーは険しい表情でこう述べたのである。
「おかしなところはありません。
ただ、あなたのプロフィールは一言でいうと『モテない』んです」
「はぁ……。モテないとは。どこがダメなんですか?」
「まず、趣味が株主優待とか、貯金とか……。色気がないですね」
「色気なんて、婚活に関係あります?堅実さの方が、大事じゃないですか?」
時次がそう答えると「白岩さんは、女心を全然理解していないですよね」と、厳しい口調で言い返す。
さらに婚活カウンセラーは、時次にダメ出しをし続ける。
「休みの日の過ごし方も、株価チェックって何ですか?
白岩さんのプロフィールを見ていると、まるでお金のことしか考えていない感じがします。
女性は人生をアクティブに楽しんでいる人に、色気を感じるものです。
白岩さんには、アクティブな趣味はないのですか?」
結婚相談所の入会金は、20万円。月々の会費も、2万円かかる。
こんなにお金を投資しているのに、婚活カウンセラーはダメ出ししかしてこない。出不精の時次からすれば、結婚相談所は立派なアクティビティでもある。
時次は、婚活カウンセラーに指摘され続けて、うんざりした。
そもそも時次が貯金や投資をしているのも、老後のことを考えているからに他ならない。
そしていつか一緒になるはずのパートナーに、苦労させたくないという思いもあった。
時次は、将来の幸せや老後を考慮し、日々コツコツと真面目に投資と貯金を続けている。
努力が実り、投資金額は2,000万円、預金通帳の金額は3,000万円を突破した。
一生懸命貯めた老後資金を守るために、時次は無駄遣いをしない女性、お金使いの荒そうな女はなるべく避けた。
カウンセラーのヒアリングに疲弊した時次は、ふらふらとした足取りで自宅のマンションに戻った。マンションも、老後のことを考えて現金一括で購入した物件である。
マンションを購入したのも、いつか一緒に暮らすパートナーと幸せに暮らすためだった。
先行投資と思ったものの、結局購入してから10年過ぎても結婚どころか、彼女すらできないままだ。
「このまま、一人で余生を終わらせてしまうのか」
時次は家に戻るなり、ふぅとため息をつく。
ふらふらと、時次はテレビのスイッチをつけた。
すると、テレビではここのところワイドショーで賑わせている女優、三谷キララの父親である三谷年也のロマンス詐欺疑惑問題について報道されていた。
時次は、三谷年也のことを知っている。三谷は、同じクラスの同級生だった。時次との出会いは、31年前に遡る。
31年前
三谷年也と白岩時次が出会ったのは、16歳の時だ。
三谷は端正な顔立ちで、ヤンチャな性格の持ち主。スクールカーストでいうと、トップに君臨するタイプで、やんちゃな彼はクラスでも大変目立っていた。
三谷と仲良くなったのは、ある期末テストの時だった。
時次がテストの問題を解いていると、背後から足をポーンと蹴ってくる人物がいる。恐る恐る後ろを見ると、三谷がウインクをした。
言葉にこそ出さないが「カンニングさせてくれ」というアイコンタクトによる指示を、時次は察した。
あの日から、三谷は困ったことがあると、すぐに時次を頼るようになる。時には、「コーヒー買ってきてよ」と、時次をパシリとして使うことも少なくなかった。
時次は、パシリにされることは嫌だった。だが、三谷のお手伝いをするといつも「わりーぃ」と言って、背中をポンと叩いてくれる。
もともと友達がいなかった時次にとって、三谷からのスキンシップは決して嫌いではなかった。
三谷との関係は、高校から25歳頃まで続いた。大学こそ違ったが、それでも三谷は何かあれば、必ず時次を遊びに誘った。大学までの三谷は、底抜けに明るくて、時次も一緒にいて楽しかった。
やがて三谷と時次が社会人になると、2人の関係にズレが生じるようになる。時次は公務員試験に合格し、市役所に勤務することとなる。
その一方で、三谷は総合商社に入社するも、その会社をすぐに辞めてしまう。
三谷が会社を辞めた理由は知らないが、乱暴な上に我儘な性格なので、周囲と合わなかったのだろうと、時次は思った。
やがて三谷は、自分が困った時のみ、時次に連絡をするようになる。
「飲み代が足りないから、お金貸してよ」
「飲み会で人が足りないから、顔出してくれない?」
三谷は自分が困った時は、決まって時次に連絡をしてきた。かといって、時次が困った時は、一度たりとも助けてくれない。
時次が好きな子ができて、恋愛相談をしてもらった時なんて、三谷はこともあろうか、その女性に手を出したのである。おまけに一夜だけ遊んで、ポイ捨てだ。
「白岩君、聞いて……。私、三谷君に遊ばれているのかもしれない」
好きだった女性から、今度は三谷について恋愛相談を受ける時次。もちろんそんなことは、一度や二度ではなかった。
そんな時次は、ある時を境に、三谷と連絡を取らなくなる。正式に言うと、三谷の電話番号を着信拒否したのである。
(もう、あの男に振り回されるのは、まっぴら御免だ)
それからは、三谷とは一度も会っていない。それでも三谷のことは、風の便りでいくつか情報を聞いたことがある。
聞くところによると、三谷は何度か結婚を繰り返したのち、娘が女優になって成功したとのこと。その女優が、どうやら三谷キララらしい。
(あいつ。貯金とか将来の事とか何も考えずに、やりたい放題だったのにさ。
なんで、将来の事を考えてコツコツ生きてる俺が、ずっと独身なんだろう。
三谷は結婚も何度かできて、子どもも生まれて。おまけに子どもは、女優として成功しているじゃないか。
なんでも、三谷キララは今や、CMギャラ一本3,000万円の超売れっ子らしいし。俺なんて、3000万円稼ぐのに一体どれだけ大変だったというのか……)
三谷のことを思うと、時次は無償にムシャクシャした。ワイドショーでは、三谷の姿が映っている。
三谷年也
久しぶりに見た三谷は、中年になってもなお、格好いいままだった。三谷は劣化どころか、色気を増していい年の取り方している。
時次はふと、鏡で自分の顔を見る。節約生活で、すっかりやつれた表情。皮と骨だけの皮膚の上には、ぱさりと乾燥した髪が数本生えている。
自分の顔を見るなり、時次は「俺も、イケメンだったらな……」と、がっくり肩を落とす。
三谷は今、ロマンス疑惑の罪で容疑者になっている。ニュースによると、複数の女性達を騙しては、金を巻き上げていたらしい。
三谷のようなイケメンには、お金を出す女がいくらでもいるのだな。時次は、虚しい気持ちになった。
ニュースでは、三谷の次に娘のキララが紹介される。キララは三谷によく似て、端正な顔の美少女だ。
キララのことは、週刊誌の特集でもよく見かける。週刊誌によると、キララはどうやらインタビューでは上手に媚びるが、カメラが回って無い時は大変我儘らしい。
ファンに対しても、握手を求められると怪訝な顔をしたり、塩対応という話が紹介されていた。キララの性格の悪さは、どうやら三谷の遺伝を受け継いでいるらしい。見た目は鷹でも、鳶は鳶だなと、時次は思う。
三谷親子のニュースを見て、時次はふと思う。顔が良ければ、大金を掴めるチャンスも得られるし、人気者にもなれるのか。
ぼんやりテレビを見ていると、非通知で電話がかかってきた。時次は、普段なら非通知の電話など出ないが、その時は妙な胸騒ぎがして、ついとっさに電話に出てしまう。
「トキちゃん!久しぶり!頼むっ!頼む!俺、俺、俺!俺だよ!わかる!?久しぶり!俺!俺!俺だって!」
勢いよく、テンションの高い声が受話器から聞こえてくる。それは、既に縁を切ったはずの三谷の声だった。
なんと数十年も前に縁を切った三谷から、突然非通知で電話がかかってきたのだ。
【続く】
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