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2020年ブックレビュー 『またね家族』(松居大悟著)

劇団ゴジゲンを主宰し、映画監督でもある松居大悟さんに、勝手に親近感を抱いている。演劇をしている長男と次男は、ゴジゲンの舞台を割と観ていて感想を教えてくれるからで、とても面白そうだ。それに、長男は本折最強さとしさんというゴジゲンの役者さんがとても好きで、先日も一緒に写真を撮ってもらっていた。

そんなこんなで、松居さんの初の小説を手に取った。

主人公のタケシは、劇団マチノヒを主宰する劇作家で演出家。公演の楽日前日に、福岡の父から「会いたい」という連絡が入る。父はがんで余命が短いという。タケシの両親は離婚しており、彼にとって父は受け入れ難い存在だった。タケシは仕事の合間を縫って、福岡と東京を行き来し、父の死まで自分の家族を見詰め直すー。

タケシやタケシの劇団を、松居さんやゴジゲンとダブらせて読んでしまうのを許してもらうとして…タケシがとてもチャーミングだ。ちょっと情けないタケシは、劇団内での人間関係がうまくいかなくなったり。サプライズで恋人を喜ばそうと温泉旅行に連れ出して、「コンタクトの洗浄液を持ってきてないから、泊まるのムリ」と断られそうになってキレそうになったり。海でおぼれかけて瀕死になりながら「写ルンです」で自撮りしたり。

自意識過剰といえばそうなんだけど、何だかかわいい。いや、断然かわいい。なぜ、かわいいんだろう。格好悪さに、正直だからか。

タケシは父を大嫌いだと言いつつ、父を思いやり、父の残り短い人生や自分と父との過去の関係をみつめる。「本当は、嫌いじゃないじゃん」とつぶやきつつページをめくる自分がいる。さらに、父の再婚相手や異母弟も含めた家族との微妙な距離の取り方を、タケシと一緒に探している自分もいる。

演劇人(映画監督でもある)の松居さんは、戯曲を書く時のせりふとせりふの間の余白を、登場人物の心情で埋めるように小説を書いたのだろうか、とふと思う。



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