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林真理子著『ビューティーキャンプ』(2016年)

忙しさのあまり、noteが開けない、書けない。
オーディブルで朗読を聞いたり、短い戯曲は読んだりしていても、いつものように感想メモを残しておく時間がない。

何かに残さないと、読後直後でも別の刺激にさらされたら、私の意識は別の方へ飛んでいってしまってしまうー。そう思い直して、作品の芯だけでも書き記しておこう。

林真理子さんは以前から大好きな作家で、最新刊の「小説8050」が気になって仕方ない。そんなことを考えながら図書館でふと手にしたのが「ビューティーキャンプ」だ。ミス・ユニバース日本代表の座を争うファイナリストたちの合宿を描いている。これがもう、面白過ぎて一気読みだった。

主人公の由希が転職した先は、ミス・ユニバース日本事務局だ。ボスは「美の伝道師」と呼ばれるフランス人のディレクター・エルザ。厳しいエルザの元で、ミス・ユニバース日本代表の最終選考会に挑む美女が2週間の「ビューティーキャンプ」に挑む。エルザの目標は、世界大会で優勝者を出すことー。

キャンプ参加者には、個性的なメンツがいる。有力候補のカレン、医大生で育ちがいい美優、最年少19歳で若さが弾ける桃花、背が高くプロポーション抜群の麗奈。これら4人を含む12人が、アスリートさながらの過酷なトレーニングとレッスンで自分の美に磨きをかける。そして、誰が日本代表になるのかドキドキの展開が繰り広げられる。

それにしても、日本人の美の価値観が世界とズレているとは。いまどき、よく考えてみたら、そうだよなと。エルザは、日本人好み(…というか、日本人男性好み)の「謙虚さ、かわいらしさ」は世界大会では通用しないと指摘する。世界の価値基準は、胸やヒップが強調されたボディに加えて、自分の魅力を堂々と表現する強くてゴージャスな女性なのだ。

「美は武器だ」と、エルザは力説する。しかし、日本では現実に美しすぎることが得かというと、そうでもないらしい。同調圧力の強いこの国では、イジメの対象にすり孤立する。仕事や知性で成功した女性は、努力で勝ち取ったものだが、美は生まれつきだと格下に見られる。「彼女たちぐらい完璧な美人でも、『私なんか』と言わないと日本では嫌われる」という一文が、社会の在りようを言い当てている。

最終選考会では、審査員たち(スポンサーのオジサマたち)の価値観の前に、エルザの思い通りの結果にはならない。したたかなダークホースがゴールを駆け抜ける瞬間が、とてもスリリングだ。




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