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2020年ブックレビュー 『女帝 小池百合子』(石井妙子著)

怖い。ひたすら怖い。このノンフィクションによると、小池百合子という政治家は異常に強い上昇志向の持ち主らしい。虚言癖もあり、利用価値がないと判断した人間は歯牙にもかけない冷酷なパーソナリティーの持ち主だ。時の権力者にすり寄って利用して離反しながらも、貪欲に自らの地位も高めていく。

そういう人物がかつて環境大臣になり、防衛大臣になり、今は東京都知事である。何が怖いって、人間の本質を見抜けず、自治体のトップにしてしまった私たち有権者であり、社会であり、マスメディアだ。

「小池百合子」という物語の始まりは、あの「カイロ大学を主席で卒業」という学歴詐称。エジプトでの学生時代に、彼女と一緒に暮していたという女性が、小池都知事の学生時代を著者である石井さんの取材で事細かに証言している。後に小池がメディアに出した卒業証明書も、怪しげで本物だといてう確証は得られていない。

「カイロ大卒」はドラマティックな彼女の「自分語り」のプロローグに過ぎず、キャスターから政治家に転身した後も、政治的な思想や明確な国家観もないままに、メディアへの露出や派手なパフォーマンス、話題づくりを最優先させながら政界を泳いでいく姿は、何となく私たちも感じてはいた。けれども、それは断片的な記憶に過ぎなかった。まとまって読んでいくと、現都知事のあやうさが実感できる。

環境相時代は、もてはやされた「クールビズ」の裏で水俣病やアスベスト被害などの重要課題は捨て置かれ、都知事になってからは豊洲市場の移転問題で発言や方針が二転三転して都政を混乱させた。けれども、マスコミは政治家として発言や資質を十分に検証してこなかった。

このような記述が記憶に残る。
「彼女が彼女になれたのは、彼女の『物語』に負うところが大きい。本来、こうした『物語』はメディアが検証するべきであるのに、その義務を放棄してきた。そればかりか、無責任な共犯者となってきた」。著者はマスコミの罪を鋭く指摘する。

また、このノンフィクションの反響で、くすぶり続けていた学歴詐称疑惑が大きく再燃したのに、「記者会見の場で事実関係の有無を、マスメディアはたださなかった」と朝日新聞都庁担当の記者が新聞記事で反省を込めて語っている。質問せず、スルーしたことこそ権力への忖度だ。

それにしても、彼女だけなのだろうか。過度なパフォーマンスや発言でメディアの話題をさらい、権力に近づいていくのはー。そういう人物を見て見ぬふりをして、芸能人の不倫話題で大衆の目を逸らし、いつのまにか空っぽな人物を権力者として祭り上げる。私たちは同じ罪を繰り返す。

著者の推論と思われる記述も混じっているのが、少し残念だ。



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