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2021年ブックレビュー『安寿子の靴』(唐十郎著)

劇作家・演出家の唐十郎さんを特集した番組を観たとき、あるNHKの単発ドラマを思い出した。唐さんの脚本で、長男の大鶴義丹さんが主演した「安寿子の靴」(1984年)という作品だった。中島みゆきの主題歌まで、なんとなく覚えている。

このドラマがなぜ、いつまでも記憶に引っ掛かっているのかよく分からない。検索してみると、ドラマの基となった短編が出版されていた。


ある春の日、中学生の十子雄は京都の鴨川で9歳の少女と出会う。名前も言わず、しつこくつきまとう少女を十子雄は持て余す。十子雄には、嫁いだ後に産褥熱で亡くなった姉・安寿子がいた。2人で姉の夫のアパートを訪ねると、赤いハイヒールをみつける。赤い靴は、十子雄が生前の姉にプレゼントしたもので、片方は池に落として失くしてしまったのだー。

赤い靴を後生大事に抱えながら、街をさまよう十子雄と少女。十年雄が寝物語に「安寿と厨子王丸」の話を少女に語って聞かせると、少女は真夜中に自分の髪を短く切ってしまう。亡くなった姉の安寿子と弟の十子雄は「安寿と厨子王丸」のメタファーだと分かるが、では幼い少女は?というのが、この物語の肝だった。

貧しい家庭の少年と親の愛情を受けられない少女が、社会を生き抜くのに、どれだけの哀しさや寂しさを味わうのか、予感させる物語。

ひとときのぬくもりを味わっても、それは永遠ではないとー。唐十郎は語っているように思える。










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